朝、6時50分にチャイムが鳴り響く。すると、夜明け前からにぎやかだった市場の青果棟に、さらなる息吹が吹き込まれたような活気がふっと生じた。
青果卸の最大手・東京青果の森田美和さんは、チャイムを合図に台の上に立つ。そして集まっていた小売店の店主たちに向かって、元気よく声を上げた。
「競売(きょうばい)はじめまーす」
野菜第4事業部に所属する彼女は、青果物では国内最大の東京・大田市場内で約7割を取り扱う同社で、主にピーマンを担当している。しかし、朝の競りではピーマンだけでなく、さまざまな野菜を販売する。
「○○○円! はい、×××円!」
「手やり」と呼ばれる指先のサインで価格を提示する大勢の買い手――彼らをテンポよくさばいていくその姿には、凜(りん)とした迫力があるのだった。
「競りでは、場の流れを読むのが大切なんです」と彼女は言う。
「商品がたくさんあるときは、安い手やりが出る場合がありますが、本当の商品価値を見定めてもらうよう、こだわりを持ちながら競りを進めます。そうしないと、本当は価値が高いものまで、安くなってしまうこともあるからです。逆に商品が少ないときも、買い手の反応をよく待たずにあまり早く競りを進めてしまうと、本来は高値が付くはずの商品が安値になってしまうこともあります」