では、鈴木教授が問題視する認可保育所の運営費はいかほどか。東京・板橋区のホームページを開くと、0歳の園児一人当たりにかかる月額費用は41万1324円とある(図3参照)。0歳児については、認可基準で保育士1人で3人までしか見られず、確かにコストは高くなる。しかし、親の月給を上回っていることもあるだろうその金額に、釈然としない気持ちが浮かぶ。

一方、保護者が実際に支払っている0歳児の平均保育料は1万9084円で運営費の4.64%にすぎない。その差額39万2240円は、国と都、そして区が負担している。ちなみに14年度の板橋区の総運営費は171億3682万円(図4参照)。本来、保護者が支払うべき国が定めた保育料は38億2383万円で、全体の22.4%をそれで賄うはずだった。しかし、区が自らの負担を増やし、保護者の負担割合を10.6%に抑えているのだ。「東京以外の自治体でも8割前後を公費で賄っており、ディスカウントされた保育料目当てに入所希望者が殺到するのは当たり前。しかし、認可保育所に入れなかった人との間に大きな不公平感を生む。かといって解消策で、それだけ高コストの認可保育園を増やすわけにもいかない。まず高コスト体質の原因を追究する必要がある」

そう語る鈴木教授が真っ先に指弾するのが人件費、それも公立認可保育所の人件費である。保育士の平均年収が323万3400円(15年賃金構造基本統計調査ベース)で、全職種の平均よりも低いことが問題になっているが、公立の認可保育所の正規の保育士は公務員で、その対象外なのだ。

少し古いデータだが、職員の職種別の給与支給実績を公開している東京・練馬区の06年度の保育士の平均年収は620万8783円。その後の昇給を考えると、官民格差は広がっているはず。「50代の園長だと1000万円台はザラ。自治体の課長、局長並みの年収の園長が、公立の認可保育所の数だけいて運営費を押し上げている」というのが保育事業者の常識だ。

非認可の保育施設でスポーツを通した教育を行い、一流アスリートを数多く輩出してきた「バディスポーツ幼児園」を都内や横浜などで7園運営するバディ企画研究所の鈴木威社長は、「以前、人口6万人強の四国のある自治体の保育改革に政策委員として携わったことがあるが、年間12億1600万円もの運営費がかかり、そのうち約6割を人件費が占めていたことに開いた口が塞がらなかった」という。

問題はそれだけではない。社会福祉法人が私立認可保育所を建てる場合、100人規模の施設で本体と内装を合わせて約2億円かかり、そのうち87.5%が整備補助として公費が投入されたりする。ただし、建設費の相見積もりを取るなど、コストを下げる努力はほとんど行われていないのだ。