国会でも取り上げられて話題になった「保育園落ちた日本死ね」のブログ。待機児童対策を問われた安倍晋三首相が保育所を「保健所」と言い間違え、現状に対する認識の甘さを露呈したり、対応が後手に回ったことなどで、政府・与党は批判を浴び、2016年7月10日の参議院選挙でも大きな争点となったのは、まだ記憶に新しい。
子育ての支援に関しては1994年スタートの「エンゼルプラン」を皮切りに間断なく打ち出され、2015年4月からは「子ども・子育て支援新制度」と、17年度末までに待機児童解消を目指して最終的に50万人分の保育の受け皿確保を盛り込んだ「待機児童解消加速化プラン」が始まっている。それなのに、事態は一向に好転しない。
図1のグラフを見てもわかるように、一時は10年をピークに漸減傾向をたどった。しかし、15年4月1日時点の全国の待機児童数は2万3167人で、前年と比べて1796人増加して高止まりしたまま。どうして待機児童が減らないのか――。経済学の観点から「ミネラルウオーターと保育所」のたとえ話で、現在の待機児童問題の根源をわかりやすく解説してくれるのが学習院大学の鈴木亘教授だ。
1本120円のペットボトルのミネラルウオーターを、皆が満足して飲んでいた。ところがある日、「低所得者には高すぎるから」といって、政府が低所得者向けは1本10円とする「価格統制策」を実施。でも、中高所得者向けの価格が120円のままでは不公平なので、30円へ大幅なディスカウントを併せて行うことになった。
大安売りになったのだから、当然、大勢の消費者がいままで以上にミネラルウオーターを買い求めるようになる。その一方で、飲料メーカーはすぐには対応できず、需要が供給を大幅に上回る状態になってしまう。すると店先には行列が発生し、「水待機者」が買えないことに怨嗟の声を上げ始める。
ここで飲料メーカーの立場について考えてみよう。いくら需要が急拡大したからといっても、10円や30円では採算が取れず、撤退の経営判断を迫られる。そうなると政府も手を拱いているわけにはいかず、公立の飲料メーカーを設立したり、公立と同じ基準を満たした民間企業に認可を与え、補助金を投入して委託生産を割り当てる。
しかし、そうした新規参入企業はそれまで市場で厳しい競争をしていた飲料メーカーとは異なり、明らかに効率性に劣る経営を行う。大量の水待機者がいるわけで、つくるそばから売れ、企業努力をする必要がまったくないからだ。また、割り当て窓口の役所の顔ばかりを見て企業活動をするので、ミネラルウオーターの質も落ちていく。