目指すは金メダル! 少数精鋭を導く主将とコーチ
【中村】1年250日も合宿して一緒にいると家族のようになります。でも、緊張感がなくなったらただの仲良しチームになってしまう。女性の共感力は良くも悪くも強い。チームが同じベクトルに向かっているのに一人だけ個人的なことで落ち込んでいると、皆もどこか引きずられてしまう。そうさせないように、言葉掛けは考えますね。また、1対1で向き合う時間をつくっています。「それ違うんじゃない?」って厳しいことでも言い合える関係です。ただ、あまりに過酷な練習の後はお互い褒めまくって、甘いものを食べに行きます。私たちは「あまあましに行く」って言うんですけど(笑)。
【浅見】私は、基本「塩対応」ですね(笑)。選考する立場にいるので、少し距離を取りながらも思ったことはその場で言うし遠慮しません。
【中村】浅見さんが「これは世界一の練習なの?」「それはオリンピックの決勝でできるプレーなの?」と緊張感のある言葉を掛けてくれます。日本代表という立場にいる以上、常に自分の100%を出せなきゃいけない。世界一の練習をして100%を120%、150%にしていかなくては、世界の頂点は見えてこない。
【浅見】そう、我々はチャンピオンチームではないので守りには入れないんです。今よりも上、上、上、上、ってやっていかないと絶対に勝てない。コーチの仕事は、選手ができなかったことをできるようにすること。だから、良くない試合や練習になってしまった時は選手のせいにせず、「何が悪かったのか」をコーチ陣でフィードバックするようにしていますね。
ただ、私はパーフェクトな人間ではないので、コーチとしても何でもできるとは思っていません。だからこそ、人柄やバランスを見て良いコーチを選びます。今、12人のスタッフがいて、そのうち男性が7人。優しさや厳しさのバランスが取れていると思います。また、スポーツは、目指す目標に頂点を合わせる、ピーキングが一番難しいんですが、専門のコーチもいます。「ここにピーク持ってくるから! 大丈夫!」って、何か半分だますかのように(笑)上へと導く魔術師みたいな存在ですね。
【中村】魔術師(笑)。自然に選手の気持ちをアゲていってくれます。
【浅見】おかげで、2015年の昇格大会には、最高の状態で出場し昇格できました。ただ、ここにも課題があります。その2週間後のアジア大会では心身が切れてしまった。スケジューリングやマネジメント、調整がさらに重要ですね。最高の状態でオリンピックに出てこそ、頂点が見えてきますから。
【中村】死にそうな練習を乗り越えてきた。目指すは金メダル。7人で、世界の頂点に立ちたいと思います。
1977年生まれ。学生時代ニュージーランドへラグビー留学し、地元クラブチームでも活躍。96年に女子15人制日本代表に。2004年からは女子7人制日本代表にも選出。07年に引退後は女子日本代表のコーチに就任し、12年より現職。
中村知春(なかむら・ちはる)
1988年生まれ。アルカス・クイーン熊谷所属。中学から大学まではバスケットボール部に所属し、大学卒業前からラグビーに転向。メキメキと頭角を現し、翌年には日本代表に選出される。現在は、会社を休職しオリンピックに集中。
構成=MARU 撮影=押本龍一