消費者へのメリットはあるのか
さて、消費者へのメリットとして、輸入食品が安くなることが強調されているが、こちらはそれほどでもないようだ。
まず、農産物については、そもそも対象となる24%の品目がすでに税率ゼロ、48%が税率20%以下であり、これらの関税がゼロになってもたいしてメリットはない。これに小売りなどの流通マージンが加わるので、小売価格は撤廃された関税率ほど下がらないというわけだ。
農家側でも、オレンジなどは、輸入制限を撤廃されてから、デコポンなど輸入品と差別化した商品を開発して対抗している。サクランボも同様だ。
また、この2年間で50%も円安になった。2年前に100円で輸入された商品が150円で入ってきているわけで、牛肉など49%までの関税が削減・撤廃されても、輸入品の価格は2年前よりも高い。
さらに、関税撤廃の例外として、米、小麦、乳製品、砂糖などの高い関税は維持することになった。これらは、食生活に大きなウェイトを占めるとともに、パンやお菓子などほかの食品の原料となるものが多いため、結局食品の価格低下は期待できない。
しかしじつは、図が示すように、米の内外価格差はすでに解消している。カリフォルニア米より、国産米のほうが安いのだ。農産物で関税撤廃の「例外」を多く要求したために、アメリカが自動車にかけている2.5%の関税は、韓国に対しては2017年に撤廃されるのに、日本車にはTPP発効後25年目でやっと撤廃されることになってしまった。日本のメリットを考えれば、米の関税と一緒に、自動車の関税を撤廃してもよかったのだ。
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。農学博士(東京大学)。著書に『日本農業は世界に勝てる』(日本経済新聞出版社)等。
イラスト=Yooco Tanimoto