2015年10月、日本は環太平洋パートナー協定(TPP)に大筋合意した。TPPにより、アジア・太平洋という広い地域で、モノやサービスが自由に取引されるようになり、投資も円滑に行えるようになる。日本にとっては、どのようなメリットがあるのか?
TPPの合意で、私たちの生活にはどう影響が出る?
2015年10月、日本は環太平洋パートナー協定(TPP)に大筋合意した。これまでも日本は、シンガポールやメキシコなどと2国間で、相互に関税を撤廃したり、投資を保護したりする自由貿易協定(FTA)を結んできた。これらと違いTPPは、アメリカ、日本、カナダ、豪州などの大きな経済国が参加する自由貿易協定である。このような自由貿易協定をメガFTAと呼んでいる。
最近では、TPPのほか、アメリカとEU、日本とEU、日本だけでなく中国やインドも参加するアジア地域でのRCEPなど、さまざまなメガFTAが交渉されている。その中で、TPPは最初に合意されたものとなった。
TPPによって、アジア・太平洋という広い地域で、モノやサービスが自由に取引されるようになり、投資も円滑に行えるようになる。日本にとって、TPP参加は次のようなメリットがある。
第一に、他国の市場へのアクセスが増加する。日本が輸出する農産品も工業製品も、相手国の関税が引き下がるというメリットがある。また、そのとき、TPP域内で作られた部品の合計が一定の比率以上であれば関税引き下げの恩恵を受けられる(これを累積原産地規則という)。
コンビニ店舗や銀行の支店の出店もより拡大される。また、公共事業などの政府調達についても、その国の企業同様、入札に参加できる範囲が拡大する。
第二に、貿易や投資についての、新たなルールの設定である。たとえば、特許や商標を無視した偽造品を強く規制できたり、投資する先の相手国政府が、自国に技術移転しろなどの要求をできないようにする。また、補助金や規制で保護されてきた他国の国有企業と海外(日本)企業が同一の条件で競争するようにできる。
第三に、自由貿易協定は、入るとメリットがあるが、入らないとデメリットを受ける。TPPが大きなものであればあるほど、また大きくなればなるほど、参加を希望する国や地域は増える。すでに、韓国、台湾、タイ、インドネシアなどが関心を寄せ、中国でも参加すべしという声がある。また、日中韓、日EU間、RCEPの自由貿易協定交渉も加速するだろう。
消費者へのメリットはあるのか
さて、消費者へのメリットとして、輸入食品が安くなることが強調されているが、こちらはそれほどでもないようだ。
まず、農産物については、そもそも対象となる24%の品目がすでに税率ゼロ、48%が税率20%以下であり、これらの関税がゼロになってもたいしてメリットはない。これに小売りなどの流通マージンが加わるので、小売価格は撤廃された関税率ほど下がらないというわけだ。
農家側でも、オレンジなどは、輸入制限を撤廃されてから、デコポンなど輸入品と差別化した商品を開発して対抗している。サクランボも同様だ。
また、この2年間で50%も円安になった。2年前に100円で輸入された商品が150円で入ってきているわけで、牛肉など49%までの関税が削減・撤廃されても、輸入品の価格は2年前よりも高い。
さらに、関税撤廃の例外として、米、小麦、乳製品、砂糖などの高い関税は維持することになった。これらは、食生活に大きなウェイトを占めるとともに、パンやお菓子などほかの食品の原料となるものが多いため、結局食品の価格低下は期待できない。
しかしじつは、図が示すように、米の内外価格差はすでに解消している。カリフォルニア米より、国産米のほうが安いのだ。農産物で関税撤廃の「例外」を多く要求したために、アメリカが自動車にかけている2.5%の関税は、韓国に対しては2017年に撤廃されるのに、日本車にはTPP発効後25年目でやっと撤廃されることになってしまった。日本のメリットを考えれば、米の関税と一緒に、自動車の関税を撤廃してもよかったのだ。
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。農学博士(東京大学)。著書に『日本農業は世界に勝てる』(日本経済新聞出版社)等。