以前、フリーランスで仕事をしている人と話をした時、自分に課している決め事の話題になった。その人は「仕事の依頼は、必ずその人と直接会うことにしている。断ることになっても顔を見て、目を見て、理由を話して断る」と言った。メール1本で仕事が済んでしまう世の中だが、フリーランスにとって仕事は一期一会、真剣勝負だ。直感的に(理論的にも)これは正しいと感じて以来、私はフリーランスではないが、それを実践している。
またある人からは、魅力ある言葉を聞いた。「物事や方向性を決める時、その話し合いにおいて、最初から『そんなの無理だよ』と言うのでは何も始まらない。「面白そうだね」って言う感覚を大切に考えて向き合っていきたい」と。こちらも私は共感し、会議や打ち合せの前にはいつも、心の中でこの言葉を呟くようにしている。
どちらの考えも腑に落ちるのだ。血が通っているのだ。同様のことを本書から感じた。
佐藤氏の『問題解決ラボ』は、ユーモアを交えながら各章が進み、分かりやすく論理的だ。例を挙げると、「答えは頭の中ではなく『テーブルの上』にある」「正解は一番面倒くさい選択肢の中に」……そして一番納得したのは「『1%のデメリット』も残さず伝える」ということ。
そのアイデアの本当のところを理解してもらうために、1%でもデメリットがあれば、必ずオープンにするという佐藤氏の姿勢。そしてその実行によって、必ず結果につながっている。魔法なんか必要としない、「実直さ」という強いチカラがそこにはあるのだ。
本書のタイトルに期待して手にとった人も、活躍中の人物が書いた本だからと読み始めた人も、読み終えた時にこの本は、「問題を解決する必殺技の書」ではないと気付くだろう。「問題」という言葉が「プラスに転換する」という思考に変わったら、本書に込めたメッセージが伝わったと、著者・佐藤氏もうれしいだろう。メッセージといえば、国内外で活躍する佐藤氏ならではのエピソードが本書で紹介されている。
――「海外ならばできるだけ単純な言葉でワン・コンセプトにするとか、スケッチで伝えるとか、そういった部分で頑張るしかないというところがありますが、日本語が優れているがゆえに、日本語をフル活用したほうが、日本のデザイン、日本のモノづくりは魅力的になるんじゃないか」――「『言わなくても伝わる』からこそたくさん伝える」より
冒頭の問いについて。佐藤オオキ氏なら、苦境の渦中にいる人へどんな言葉を掛けるのか? いやいやちょっと待てよ。まず自分自身がどんなメッセージを伝えたいのか、を考えることが先だ! 自分がどんな行動をするのか、が大切だ!
そう思いながら 再び本書を読み始めている。