既成概念からあなたを解放する、多方面でデザイナーとして活躍するnendo代表・佐藤オオキ氏の仕事&発想術。ハウツーではない、思考回路のスイッチを切り替えるヒントが満載の、新年にぴったりな本を紹介します。

苦境の渦中にいる人に、言ってはいけない言葉は「頑張ってください!」だと聞いた。そう、渦中にいる人は既に余力がないほど頑張っている、または冷静さを失うほど追いつめられている場合が多く、「何をどう頑張ればいいんだ!」とさらに混乱してしまうからだという。

そんな苦境に立つ人に、本書の著者だったらどのようなタイミングで、何を言うのか? 「頑張ってください!」に代わる適切な言葉は何か? 読み終えた時、ぼんやりとそんなことを考えた。

『問題解決ラボ 「あったらいいな」をかたちにする「ひらめき」の技術』(佐藤オオキ著/ダイヤモンド社刊)

『問題解決ラボ――「あったらいいな」をかたちにする「ひらめき」の技術』、著者は佐藤オオキ氏。佐藤氏はデザイナー、デザインオフィスnendoの代表だ。「プロフェッショナル 仕事の流儀」「SWITCHインタビュー 達人達」「ガイアの夜明け」等、数々のテレビ番組に出演しているので、ご存知の方も多いはず。私は佐藤氏がナビゲーターを務めるラジオ、「J-wave CREADIO」(毎週日曜 21時~)のファンである。

本書タイトルを見て、どんな問題でも簡単に解けてしまう魔法を期待する人がいるかもしれないが、答えはノー(笑)だ。そんな魔法は世界中どこにもないし、近道をしてはいけない。

本書は佐藤氏が仕事を通して経験してきた感じ方、志向性、行動の軌跡であった。そしてそこにはもちろん魔法はなく、「実直さ」が存在していた。

以前、フリーランスで仕事をしている人と話をした時、自分に課している決め事の話題になった。その人は「仕事の依頼は、必ずその人と直接会うことにしている。断ることになっても顔を見て、目を見て、理由を話して断る」と言った。メール1本で仕事が済んでしまう世の中だが、フリーランスにとって仕事は一期一会、真剣勝負だ。直感的に(理論的にも)これは正しいと感じて以来、私はフリーランスではないが、それを実践している。

またある人からは、魅力ある言葉を聞いた。「物事や方向性を決める時、その話し合いにおいて、最初から『そんなの無理だよ』と言うのでは何も始まらない。「面白そうだね」って言う感覚を大切に考えて向き合っていきたい」と。こちらも私は共感し、会議や打ち合せの前にはいつも、心の中でこの言葉を呟くようにしている。

どちらの考えも腑に落ちるのだ。血が通っているのだ。同様のことを本書から感じた。

佐藤氏の『問題解決ラボ』は、ユーモアを交えながら各章が進み、分かりやすく論理的だ。例を挙げると、「答えは頭の中ではなく『テーブルの上』にある」「正解は一番面倒くさい選択肢の中に」……そして一番納得したのは「『1%のデメリット』も残さず伝える」ということ。

そのアイデアの本当のところを理解してもらうために、1%でもデメリットがあれば、必ずオープンにするという佐藤氏の姿勢。そしてその実行によって、必ず結果につながっている。魔法なんか必要としない、「実直さ」という強いチカラがそこにはあるのだ。

本書のタイトルに期待して手にとった人も、活躍中の人物が書いた本だからと読み始めた人も、読み終えた時にこの本は、「問題を解決する必殺技の書」ではないと気付くだろう。「問題」という言葉が「プラスに転換する」という思考に変わったら、本書に込めたメッセージが伝わったと、著者・佐藤氏もうれしいだろう。メッセージといえば、国内外で活躍する佐藤氏ならではのエピソードが本書で紹介されている。

――「海外ならばできるだけ単純な言葉でワン・コンセプトにするとか、スケッチで伝えるとか、そういった部分で頑張るしかないというところがありますが、日本語が優れているがゆえに、日本語をフル活用したほうが、日本のデザイン、日本のモノづくりは魅力的になるんじゃないか」――「『言わなくても伝わる』からこそたくさん伝える」より

冒頭の問いについて。佐藤オオキ氏なら、苦境の渦中にいる人へどんな言葉を掛けるのか? いやいやちょっと待てよ。まず自分自身がどんなメッセージを伝えたいのか、を考えることが先だ! 自分がどんな行動をするのか、が大切だ!

そう思いながら 再び本書を読み始めている。