Nさんのカフェは、彼女の人柄やオーガニックに徹底的にこだわった料理がじわじわと口コミで広がり、今では超人気店になりました。わざわざ遠方から来るお客さんもいます。それだけ彼女の「あったらいいな」に共感してくれた人がいるということですよね。

実はこの言葉は、彼女がメンター(ビジネス上の指導者)から言われたことだそうです。そのメンターも外国人で、日本で商売を始めて成功した人。その信念をNさんが、そしてNさんから僕が引き継いだというわけです。少しも難しくなく、とてもシンプルな言葉。だからこそ心に響きました。

自分が理屈っぽくて、あれこれ考えてしまう性格のせいなのか、普段の会話でもシンプルでストレートな感情表現をする女性をかわいいなと思います。たとえば、僕は料理が大好きでよく自宅でもつくるのですが、つくった料理を食べたときに「これ、おいしい!」と言われるのが好き。僕だったら、味をよく分析して、どこがどんなふうにおいしいか言わないと気がすまないですから。男は、自分にない部分を持った女性にひかれるんでしょうね。

道尾秀介
1975年、東京都生まれ。大学1年生の時から小説を書き始める。会社員を経て、2004年『背の眼』(幻冬舎)で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し作家デビュー。トリックを使いながら人間を描く作風が注目を集める。11年『月と蟹』(文藝春秋)で第144回直木賞受賞。近著に『透明カメレオン』(KADOKAWA)。

構成=東野りか 撮影=枦木 功(nomadica)