判断するにはまず情報、そして「あたり」をつける

【久乗さん】これほど自分ですべてを決めなくてはならない状況になったのは初めてでした。私は判断力がないのです。川崎社長は、いろいろ質問すると教えてはくださいますが、「こうすべき」というアドバイスはなくて、「それがCEOの仕事だ」と、自分で決めるように言われました。

【川崎社長】鬼の所業ですよね(笑)。「こうしたら」と言ってしまいところをこらえていました。

アデコ株式会社川崎健一郎社長。1999年に青山学院大学を卒業後、同年、株式会社ベンチャーセーフネット(現 株式会社VSN)に入社。その後、VSNの常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月に同社代表取締役社長に就任。2014年6月にアデコ株式会社代表取締役社長に就任。

確かに、彼女の課題は決断力ですね。本人も相当悩んでいるんじゃないかな。CEOが最も頻繁に行わなくてはならないのが、判断し、決断すること。周りの意見は聞くけれど、最終的な判断はCEOがしなくてはなりません。それも、場合によっては会社の損失になったりするような重要な決断ばかりです。決断力は、一朝一夕で育まれるものではありません。でも久乗さんは、悩みながらもとてもいい方向に進んでいると思います。

判断するにはまず、情報が必要です。このアドバイスを受けたら大抵は、あらゆる情報を収集しようとして、情報に溺れてしまいます。そして何を取捨選択していいか分からなくなり、余計に判断ができなくなります。彼女も最初の2週間くらいは、苦労したのではないかと思います。

そこを過ぎると、ある程度の割り切りができるようになります。すべての情報を得ることは不可能ですから、「このあたりの情報があれば決められるだろう」という「あたり」をつけて、決断しないと前には進めない。そうした力は、すべての経営者が常に磨いているものです。久乗さんは勘が鋭いので、たった1カ月の間で、そうした「あたり」をつけることが上手になりました。

──久乗さんが持つほかの要素についてはいかがですか?

【川崎社長】圧倒的に高かったのは「実行力」です。それぞれの要素について都度、5段階で評価しているのですが、最初から4をつけたのがこれです。さらに磨いてほしいのであえて4にしていますが、もっとも5に近い。

CEO for One Monthの初日、オフィスに入った瞬間から、それを感じました。CEO for One Monthには、ガラス張りの個室のオフィスが与えられるのですが、普通ならこうした状況に面食らって、最初は緊張して動けないのではないかと思うのです。しかし彼女は、オフィスで椅子に座った瞬間から、「写真を撮っていいですか?」と。早速SNSにアップしたりと、非常に積極的でした。

また、まったく物怖じせず、社員にも話しかけて挨拶し、名刺交換をしたりしています。こうした瞬発力や行動力は、なかなかまねできるものではありませんね。