非日常の空間&時間を贅沢に愉しむ

ヴェネツィアは、歴史的には中世ヴェネツィア共和国の首都として栄華を誇り、現在も「水の都」「アドリア海の真珠」と讃えられ、世界有数の観光地として今なお多くの人々を魅了し続けています。大小の島々がラグーナと呼ばれる干潟に散在し、海からのエントリーが一番スムーズに設計されていて、たくさんの客船が港に停泊しています。

また、運河を船でいくという移動の非日常性や、船上から眺める街並と水景の美しさに加え、電車や飛行機でヴェネツィアに入っても、必ず船に乗り換えしないと会場にたどり着けないので、何をするにも時間の余裕が必要です。

先に述べた“徹底的な不便さ”が、来訪者に必然的に長期間の滞在を余儀なくするので、こうした2、3日では観きれないほどの大規模な展覧会に向いているロケーションともいえるのです。

過去からの財産である、華麗な街並と古典的なインフラシステムはそのままに、最先端にして質の高い現代アートというコンテンツで刷新感を演出し、不便さですら味方につけるヴェネツィアの魅力と、したたかな計算、そして戦略がビエンナーレから浮かび上がってきます。多くの観光客が何度でもこの地を訪れるという成功が、今、世界各地で行われている国際芸術祭の源泉ではないでしょうか。

ビエンナーレのシーズンが始まると価格が高騰するにも関わらず、宿を確保するのがとても困難です。世界中から集まる作家、キュレーター、コレクター、文化人や芸能人などの富裕層は、「開催時期に合わせて、5つ星ホテルを一生涯予約している」という話をよく耳にします。

簡単にはたどり着けない場所にもかかわらず、伝統に培われた資産に加え、現代アートの祭典を隔年で開催することによって、人々を魅了してやまない力をヴェネツィアは持ち続けているのです。

※次回は第56回ヴェネツィア・ビエンナーレで評価の高い、ナショナル・パビリオン「日本館」の作家、塩田千春さんのインタビューをお届けします。7月2日更新予定。