対象は妊娠しにくい人
では、着床前スクリーニングは妊娠率を高めるのだろうか?
日本産科婦人科学会は、今回の臨床研究は、着床前スクリーニングによって妊娠率や出産できる率が上がるか、流産率が下がるか等、この技術が子どもを授かりやすくしてくれる技術なのかどうかを検討する。
染色体が正常な胚だけを戻すのであれば、妊娠率が上がりそうなものなのに、なぜ、わざわざこのような研究をおこなうのだろう。それは、今回、対象になる人たちが「胚移植を3回以上おこなっても妊娠しなかった人」「2回以上流産を繰り返した人」に限定されていて、もともと妊娠しにくい人たちが対象になっているためだ。
妊娠しにくい人は、そもそも「卵子があまり採れない」など胚の選び方以外の問題があることも多い。胚の数がわずかしない場合は、染色体を調べると子宮に戻す胚がなくなってしまう確率が高い。ただ、出産に至らない胚移植を避けられる人は多く出るかもしれない。そうすると、女性は要らない投薬や高額な治療費の負担が減り、流産で落胆することも減る。
受精卵がたくさんある人は、染色体が正常な受精卵が見つかる確率が高いかもしれず、その場合は、早く治療を卒業できるかもしれない。いずれにせよ、受精卵についてのより正確な情報は、強く望まれていることは確かだ。
ただ、検査の直接の目的ではないにせよ、染色体を調べれば、生まれてくる可能性もある染色体疾患、性別などさまざまなことがわかり、今後はさらに詳しい検査もできるようになっていく。
出生前診断の最大の不安は「パーフェクトベビー」「デザイナーベビー」への願望がエスカレートしていくことだ。人工妊娠中絶が行われない着床前の検査が、その始まりになることは想像に難くない。これを機に、出生前診断も法律を考えていくことが必要だ。
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com