子どもの頃から持ち続ける「夢」
ただ、一つ残念なのは、そんなふうにロケットの開発をする私たちエンジニアは、実際の打ち上げの様子を外で見ることができないことです。ECCには窓が一応あるけれど、打ち上げ台の方角は見えません。だから、開発陣の中には自分の携わったロケットの打ち上げを、モニター越しにしか見たことのない人がたくさんいるんです。
打ち上げが終わった時にいつも印象に残るのは、リーダーの顔つきが「ふにゃ」っとなることですね(笑)。打ち上げの日が近づくに連れて、段々と険しくなっていく彼らの表情が、成功すると驚くほど柔らかくなる。それだけ大きなプレッシャーがかかっているんです。
そうして昨年9月の打ち上げが終わり、いまはイプシロンの2号機の開発が始まっています。改良を重ねて、より安価なロケットを作っていくこと。それがプロジェクトチームの目標です。
私自身について言えば、このプロジェクトが一段落したら、将来は人工衛星の開発に携わりたいと考えています。
打ち上げてすぐに結果の出るロケットに対して、人工衛星は軌道に乗った後に様々な実験や観測を行われます。「はやぶさ」プロジェクトでは7年でしたし、一般的な人工衛星でも1機につき5年くらいかかる。そうした長い期間のプロジェクトの一員になれば、宇宙で仕事をしているという実感がより得られると思うんです。
そしてその思いは、子供の頃に夜空を見上げていた時間と、いまもつながっているように感じています。職業になると「夢」というのはだんだんと現実の中に消えていく。だけど「星がきれいだな」というあの気持ちは、今も昔も同じように持ち続けています。
●手放せない仕事道具
PCと陶器のツボ押し。余裕のない日でも、ツボ押しを握ると心が少し落ち着く。
●ストレス発散法
年に一度の海外旅行。世界遺産を見に毎年“逃亡”する。
●好きな言葉 和む
1976年東京都出身。立命館大学を卒業後、1999年、JAXAの前身である NASDA(宇宙開発事業団)に入社。H-IIA/H-IIBロケットの搭載電子機器の開発に携わる。2012年より現職。
稲泉 連=構成 向井 渉=撮影