風景や食べ物に癒やされる「小確幸」
香港や台湾でも公務員になれるのは一握りのエリートだ。何度も試験に不合格となり、挑戦を続ける人がいる。しかも、挑戦し続けたら合格するというわけではなく、努力が実らないまま挫折し、不本意な道に進まなければならないという人も多い。
「ちいかわ」でも同様だ。理不尽なことが起きても、その現実と向き合わなければならないときがある。そのとき、友人の「ハチワレ」が励ましてくれたり、「うさぎ」たちと思いやりながら困難を乗り越えていく。そして、ちょっとした風景やおいしい食べ物に癒やされる。
それは中国語でいう「小確幸」(シャオチュエシン=小さいけれど確かな幸せ)というものだ。中国でも大人気の小説家、村上春樹氏が使った言葉で、十数年前から流行語のように使われるようになり、今では定着している。
私は十数年前に中国の自動販売機の側面にこの言葉が書かれているのを初めて見て(そのときは流行語になりつつあるということを知らず)、純粋に「いい言葉だな」と思った。おいしい飲み物を飲むだけで小さな幸せを味わえる、というようなキャッチコピーだったと思う。
「厳しい社会」だからこそ響く
台湾では6歳未満が鑑賞できない「保護級」に指定されたように、「ちいかわ」にはグロテスクなシーンや、ハードなシーンも意外と多い。厳しい戦いが終わったあと、ほっとさせられる友情や、何気ない会話に「小確幸」を中華圏の人々も感じる。いや、日本よりずっと厳しい社会に暮らしているからこそ、「小確幸」を私たちよりも強く感じるということだろう。
また、「ちいかわ」はほとんどしゃべれないため、「ハチワレ」がストーリーの語り役となっているが、すべてを語らないことが「行間を読む」「相手の気持ちを察する」ことに長けている中華圏の人々の心に迫るものがあるのではないか、と私は個人的に感じている。
ストーリーは若者だけでなく、大人が見ても、ときには「やりきれない」「切ない」内容となっており、それがかわいらしい「ちいかわ」の見た目とのギャップ、萌えポイントとなっている。人生には、どちらに進むのが正解なのか、あるいは、あとから振り返ってみたときに、あのときの選択は正解だったのか、わからないことがたくさんあるが、そうした問題も「ちいかわ」の中で描かれている。