朝ドラは現代的な女性像にアレンジ
そもそも直美と小川の出会いは、良いものではなかった。友人の見舞いに来た小川が、療養中の相手に“ぼた餅”を差し入れようとし、看護婦取締の直美がそれを取り上げて制したことから口論になる。第一印象は悪かったと言って良い。そこから小川が直美の仕事ぶりに一目置くようになり、想いを伝えるに至る。相手の機嫌より患者の体を優先して一歩も引かない直美の姿勢が衝突を生み、その姿勢が小川の心を動かした。
明治の女性にとって、結婚と職業は両立しにくいものだった。雅は家庭を持ち、それを失ったうえで看護を選び、看護婦という仕事そのものを自立した職業へと押し上げていった。まず職業人として立ち、そのうえで結婚へ踏み出そうとする直美の歩みは、雅が切り開こうとしたその先にある。どちらの生き方が幸福かという話ではない。時代の制約のなかで、女性が仕事と家庭のあいだをどう歩いたのか。その違いが、モチーフとドラマの人物のあいだに表れている。
プロポーズを受ける直美が、その先にどんな暮らしを選ぶのか。看護の仕事を続けるのか、家庭に入るのか。雅がたどった道のりを知っておくと、直美がこれから歩む道の意味も違って見えてくる。二人の結婚が描く対比を、これからも見届けたい。
・参考資料
『「大関和」を通して見た日本の近代看護』、『近代看護の先駆者「明治のナイチンゲール 大関和」』展示図録(大田原市那須与一伝承館)、別冊太陽『大関和』、毎日新聞出版『Newsがわかる特別編 大関和がわかる』、メディアソフト『朝ドラ「風、薫る」がもっと楽しくなる! 大関和と鈴木雅の人生』、日本看護歴史学会、女子学院中学校・高等学校公式サイト、婦人公論.jp「2026年春朝ドラ『風、薫る』のヒロインモチーフ・大関和」、NHK「風、薫る」公式サイトおよび各話あらすじ
1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など