筋肉のオン・オフを握る栄養素
マグネシウムは骨の構成成分です。体内の6割のマグネシウムが骨に存在し、カルシウムと置換された形態でヒドロキシアパタイトに含まれます。
血液中のマグネシウムの濃度が低下すると副甲状腺ホルモンが分泌され、マグネシウムの骨からの溶出が増大して、血液内のマグネシウム濃度が保たれます。
筋肉の収縮と弛緩においてマグネシウムとカルシウムの作用は拮抗しています。筋細胞の小胞体からカルシウムイオン(Ca2+)が細胞質内に放出されると筋細胞が収縮します。
一方、マグネシウムイオン(Mg2+)が小胞体のカルシウムポンプに結合すると、このポンプが活性化してCa2+が小胞体内に取り込まれます。その結果、細胞質内のCa2+濃度が低下して筋細胞は弛緩します。
脳を目覚めさせるマグネシウム
神経伝達においてもMg2+は重要な役割を果たしています。NMDA型グルタミン酸受容体は、イオンチャネル共役型受容体です。
Mg2+はこの受容体の開口口を塞いでいるため、グルタミン酸が結合するのみではチャネルが開口しません。グルタミン酸の結合に加えて、受容体の周辺に脱分極が起こることで、開口口のMg2+が外れると、ようやく開口します。
したがって、この受容体は強い刺激が起こった時、すなわち、グルタミン酸(リガンド依存性)と脱分極(電位依存性)の二つの条件が揃って初めて開口します。この受容体の別の特徴はCa2+を通過させることであり、脱分極を導くのではなく、Ca2+を細胞内に流入させてCa2+細胞内情報伝達を活性化させます。この受容体は記憶する場合などの強い刺激を受けて働く特殊な受容体です。
興味深いことに、脳内マグネシウム濃度が高まると記憶力がよくなることが示されています。一方、マグネシウム欠乏では記憶力が低下します。マグネシウムはDNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、DNA修復関連酵素など、数多くの酵素の補因子にもなっています。
1994年3月、東京大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士課程修了。東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科教授などを経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻教授。日本神経精神薬理学会理事、日本農芸化学会理事を歴任。文科省科研費新学術領域(領域提案型)「マイクロ精神病態」領域代表、ムーンショット型研究開発事業として「食の心理メカニズムを司る食嗜好性変容制御基盤の解明」のプロジェクトマネージャーなども務めた。
