限られた食材で生き延びた人類の進化
私たちはしばしば「毎日同じものばかり食べてはいけない」と思い込みがちですが、ちょっと考えてみましょう。
多くの動物は、毎日ほぼ同じ餌を食べながらも健康を維持しています。たとえば羊や牛は、ほとんど同じ草や干し草を食べます。もちろん、彼らは人間とは異なる消化システム(反芻胃)を持っているため、草だけからでも必要な栄養を作り出すことができます。
パンダは竹ばかり、コアラはユーカリばかり食べますが、これは彼らの体が、その食事に特化して進化してきたからです。肉食動物のライオンも、ほぼ毎日同じような食事をしています。彼らは多様な食材を求めるのではなく、狩りで得た栄養価の高い肉をとることで健康を維持しています。
では、人間はどうでしょうか?
人間は雑食性で、多様な食材を食べられる能力をもっています。しかし、だからといって「毎日違うものを食べなければならない」わけではありません。
歴史を振り返ってみても、人類は長い間、限られた食材を繰り返し食べてきました。農耕が始まる前の狩猟採集時代、人々は季節ごとに手に入る食材を繰り返し食べていました。現代のように「毎日違うメニュー」を食べられるようになったのは、ごく最近のことです。
それは選択肢が少なかったからというより、生き延びるための合理的な戦略でもありました。体は、安定した栄養供給に適応するように進化してきたのです。
栄養の確保と摂取の安定性が健康の基礎
実は、「食事の多様性も大切ですが、それ以上に栄養の確保と摂取の安定性が健康の基礎となる」という考え方もあるのです。
毎日同じメニューを食べ続けることで、体は食べる量やタイミングを覚え、消化吸収や代謝のリズムが安定します。体内の酵素やホルモンが予測可能なリズムで働くため、腸内環境も整いやすくなり、血糖値の急激な変動も抑えられます。
私自身も、研究に没頭していた時期は、毎日ほとんど同じ昼食をとっていたことがあります。
コンビニのおにぎりと即席味噌汁、サラダ。変化はほとんどありませんでしたが、不思議と体調は安定し、食事について悩む時間も減りました。今思えば、それは「単調」ではなく、「安定」だったのです。
近年の研究では、「腸内細菌と食習慣の関係」も注目されています。
腸内細菌は、毎日食べるものに適応して変化していきます(*2)。たとえば、毎日納豆を食べる人の腸内には、納豆の栄養を効率的に利用できる細菌が増えます。同様に、毎日ヨーグルトを食べる人、毎日野菜を食べる人、それぞれの腸内環境は、その食事に最適化されていくのです。
つまり、同じものを食べ続けることで、その食事を効率的に消化吸収するための腸内環境が育つ、という側面もあるのです。