AIは全員を救わない
では、AIを使えさえすれば誰もがスーパー社員になれるのだろうか。ここにも1つの罠がある。
IMF(国際通貨基金)の論考で紹介された、スペインの大学のディベート大会に生成AIを導入した実験によれば、もともと能力が高かったディベーターの勝率はAI使用によって明確に跳ね上がった。一方で、能力が低い層には有意な差が見られなかったのである。IMFの論考では、高能力層のディベーターは生成AIを使うことで勝率が12%高まった一方、低能力層では大きな変化が見られなかったと紹介されている[5]。
AIが出してくる無数のアイデアの中から、「どれが筋が良いか」「どう組み合わせれば勝てるか」を見極める力がある人ほど、AIを武器にして成果を飛躍的に伸ばすのだ。
AIは、仕事を自動的に良くしてくれる魔法の道具ではない。AIは、使い手の判断力を増幅する道具である。これを経済学などでは「スキル・プレミアム」と呼ぶが、平たく言えば「デキる人がAIを使うと、もっとデキるようになり、結果として能力格差が広がる」という現実がそこにある。
高度デジタル人材には高報酬を用意
こうした変化を、企業側はすでに織り込んでいる。
企業は一方で早期退職を募りながら、他方では高度デジタル人材やAI人材に対して、これまでの日系企業の常識を打ち破るような高い報酬を提示し始めている。
富士通は2026年度以降の新卒入社者について、ジョブレベルに応じた処遇へ切り替え、大半の新卒入社者は年収約550万〜700万円、高度な専門性を有しさらに高いジョブを担う人材は年収約1000万円程度になることもあるとしている[6]。
富士通はまた、「高度人材処遇制度」で、AIやセキュリティ分野のトップ人材に最高年収3500万円を提示する仕組みを設けている。同社資料では、高度専門職Sについて「年収2500万〜3500万円を想定」とされ、対象領域にはサイバーセキュリティ、AI、データサイエンティストなどが含まれている[7]。
NECは、優秀な研究者に対して新卒であっても年収1000万円超を提示する制度を導入した。NECはESGデータブックで、高度な専門性を有する研究者に対して、報酬上限のない「高度研究専門職制度」や「選択制研究職プロフェッショナル制度」を適用していると説明している[8]。
日立製作所やNTTデータ、さらにはメガベンチャーなども、ジョブ型報酬や専門人材への高報酬制度を次々と打ち出している。
