「本音」は争いや喧嘩に発展しやすい

SNSでは、アカウントを作った瞬間から同じ場所にアイコンを掲げ、自分の価値観に基づいて発信を続けることになります。けれども、その発信を見に来る人たちは多種多様であり、しかも匿名性が高いため、相手の調子や、雰囲気、本音を知ることは容易ではありません。

つまりSNSで発信するという行為は、京都人が一つの場所に店を構え、素性のわからない多様な観光客を入れ代わり立ち代わり迎えているのと同じ状況だと言えるのです。

もしSNSに触れている人の多くが、京都人の「たてまえ」を単に「いじわる」や「陰湿」なものだと感じているなら、それを「対立を避ける知恵」とは気づかないでしょう。むしろ「交流とは、自分の価値観に基づいて本音で発信するものだ」と考えているはずです。

もちろん、思った通りのことを表現することや、本音を言うこと自体が悪いことだとは思いません。しかし気をつけなければ、互いの価値観が正面から衝突し、あちこちで「言い争い」や「口ゲンカ」に発展することがあります。

不思議なことに、現実で顔を合わせていれば起きないはずのすれ違いも、文字だけになるとより強く受け止めてしまいます。ましてや相手は匿名で、本当の人柄や状況が見えないため、「なぜそんな言い方をするのか」を想像せず、売り言葉に買い言葉で反発し合ってしまうのです。

「論破」「言い負かし」は得策ではない

こうして小さな行き違いが大きな争いに発展しやすいのが、SNS特有の難しさだといえるでしょう。

さらにSNSでは、ほんの一言でも意図せず攻撃的に受け取られることがあります。「いいね」や「閲覧数」「シェア」といった仕組みが承認欲求を刺激し、「論破して注目を集める」ような行動を誘発してしまうからです。

服部真和『京都人が教えるずるいけどうまい合意の技術』(青春出版社)
服部真和『京都人が教えるずるいけどうまい合意の技術』(青春出版社)

実際、SNSではフォロワー数が多い人や有名人、実績のある人ほど「匿名アカウントから絡まれやすい」傾向があります。「○○を論破した」「□□に言い返してやった」と言いたげな自尊心が飛び交い、対話の質よりも勝ち負けの印象ばかりが重視される空気ができあがってしまっているのです。

もっとも、こうした対立が表に出やすいのがSNSというだけで、実際に人と向き合う場面でも似たような状況になることは少なくありません。

結局のところ、昔と違って、現代では日本中どこにいても多文化・多様な価値観に向き合わざるを得ないからです。そのような状況で、相手を論破したり、言い負かすことに価値を見出すのは得策とは言えません。

服部 真和(はっとり・まさかず)
行政書士、服部行政法務事務所代表

1979年、京都市生まれ。中央大学法学部卒業。京都府行政書士会 相談役。起業難関のまち京都で1500件を超える新規事業創出を支援し、行政手続・法律と現場をつなぐ「橋渡し」の専門家。とりわけ、景観、まちづくり、民泊、看板規制など、住民・事業者・行政が対立しやすい「摩擦の多いテーマ」において、三者の意見をまとめあげる調整役として数々のプロジェクトを成功させてきた。「衝突の現場を整理し、納得をつくる技術」に定評があり、関わった民泊案件300件のうち合意形成率は100%。著書『教養としての「行政法」入門』(日本実業出版社)など。