「腹落ち」がなければ不満につながる

しかし、この合意、あなたが「本当に納得したうえでのものかどうか」は別問題です。

元々は千円で売りたかったのに、結果的には800円で妥協しています(交渉などでは「譲歩」という)。つまり、頭では「まあ、この条件なら仕方ないか」と考えたのですが、心の奥底で「でも、なんとなく引っかかる」と感じていれば、それは「合意」には至っていても、「腹落ち」しているとはいえないわけです。

当事者が一応、条件面では「合意」に達しても、「腹落ち」できていない場合、その後に小さな不満が積み重なり、結局は再び揉め事に発展してしまうということはあります。これは、当事者が「合意はしたけれど、納得まではしていない」つまり「腹落ち」がともなっていなかったことが要因です。

服部真和『京都人が教えるずるいけどうまい合意の技術』(青春出版社)
服部真和『京都人が教えるずるいけどうまい合意の技術』(青春出版社)

「腹落ち」は、「腑に落ちる」と表現してもいいのですが、いずれにしても頭だけで(つまり、理屈で)理解するのではなく、「感情的」あるいは「認知的」な対立を解消しておくことが必要です。

この「腹落ち」がなければ、人は「合意」しても心のどこかで抵抗感を残し、その後の行動に消極的になったり、不満を口に出したりします。

逆に、少し条件に不利な点があっても、自分の気持ちがきちんと汲まれて、「寄り添ってもらえた」と感じたとき、人は「腹落ち」しやすくなります。そのため、対話の場では「どう合意を取るか」だけでなく、「どうやって相手の腹落ちを引き出すか」がとても重要になります。

京都人の「たてまえ」は調和のため

だからこそ「合意」と「腹落ち」の違いはしっかり区別して考える必要があります。

大切なのは、相手のなかに感情的なモヤモヤも、認知的な違和感も引きずらないようにすることです。

京都人が「たてまえ」を駆使するのは、決して「いじわる」や「冷たさ」ではなく、理屈面の善し悪しより「腹落ち」に根差した「感情的対立」や「認知的対立」の解消を重視するからです。

そうすることで、関係を長続きさせ、争いを防ぐ「調和」につながると考えています。

服部 真和(はっとり・まさかず)
行政書士、服部行政法務事務所代表

1979年、京都市生まれ。中央大学法学部卒業。京都府行政書士会 相談役。起業難関のまち京都で1500件を超える新規事業創出を支援し、行政手続・法律と現場をつなぐ「橋渡し」の専門家。とりわけ、景観、まちづくり、民泊、看板規制など、住民・事業者・行政が対立しやすい「摩擦の多いテーマ」において、三者の意見をまとめあげる調整役として数々のプロジェクトを成功させてきた。「衝突の現場を整理し、納得をつくる技術」に定評があり、関わった民泊案件300件のうち合意形成率は100%。著書『教養としての「行政法」入門』(日本実業出版社)など。