職場では「母親」を隠す女性たち
【上野】叩かれて傷ついたことをバネにしたアグネスさんは立派です。でもみんながみんなできることではないと思うんです。
当時、社会に出た時に風潮に逆らって叩かれるようなことはしないと考える学生が多かったように思います。
彼女達の背後にあるのは、一つは職場に私生活を持ち込まないという職場の美学。もう一つは、子育てをするなら子育てに専念するという母親の規範。仕事も子育てもと欲張った挙句、どちらも中途半端になるのが怖いという心理が働いていました。
ジャーナリストの浜田敬子さんに『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』(集英社 2022年)というタイトルの著書があるのですが、それを見た時に胸が痛みました。母親は罪悪感なしには働けないのか、と。
他方で彼女はこんなことも言っていました。管理職になった時にふと周囲を見渡してみたら、自分同じように子育てしながら働いている母達が職場にいた。それまでそのことに気づかずにいたのは、自分も含めて私生活の匂いを職場では消していたからだ、と。
仕事と育児、両方完璧を目指さなくていい
【アグネス】大変だと思えば大変ですが、天に与えられた恵みだと思えば感謝になります。子どもが欲しくても叶わない人もいるし、仕事のチャンスをつかめない人もいる中で自分は両方できる状況にありました。これはもう感謝してやるしかないんですよね。
【上野】それはそうですね。
【アグネス】もちろん子どもが小さかった時には断らなければいけない仕事もありましたが、その時にできる仕事を精一杯すればいいと考えていたんです。
私も常に両方完璧にできていたわけではないし、それを目指していたわけでもありませんでした。誰かから見て完璧であることより、自分が今はこのバランスでいいと納得することを目指しました。
それでやっていたら子どもが成長し、手がかからなくなった時にも仕事はちゃんと続いていて、ここから先は仕事の比重を増やそうと切り替えたんですね。結果として、子ども達が育ち、仕事も続けていけました。