医療費の自己負担は最大でも月約9万円

今回のような事故のとき、役に立つのはお馴染みの「健康保険」。こちらは業務外の病気やケガがすべて対象になる。医療費の自己負担額は3割で、残り7割は健康保険が負担する。会社員に限らず、日本では誰もが何らかの健康保険制度に加入する“国民皆保険制度”があって自己負担割合はどの健康保険でも同じ。これは、世界でもまれな優れた制度といっていい。

特に覚えておきたいのは、健康保険の「高額療養費制度」だ。一般的な収入の人なら、医療費がどれだけ高額になっても、自己負担額は1カ月に9万円程度ですむようになっている。

高額療養費制度による自己負担の上限額を計算式で示すと次のとおり。

<負担の上限額=8万100円+(実際の医療費-26万7000円)×1%>

もし大ケガで入院し、実際の医療費が100万円かかったとしても、自己負担は8万7430円ですむという計算だ。また、治療が長引いて高額療養費の適用を受ける期間が4カ月以上になれば、4カ月目以降の上限額は4万4400円にダウンする(いずれも70歳未満の場合。2013年11月現在)。

会社員なら収入保障もある

このほか会社の健康保険には、病気やケガで働けなくなったときに収入を保障する「傷病手当金」という制度もある。対象となるのは連続して3日間会社を休んだ場合で、4日目以降から傷病手当金が受け取れる。金額は収入の3分の2相当で、期間は最長で支給開始の日から1年6カ月。ただし、会社を休んでも給料が支給される日は対象外になる。

この傷病手当金の目的は、病気やケガで休業している期間の生活を保障すること。だから、傷病手当金を受け取れるのは手術や入院が必要なケースだけではない。通院治療だけの場合でも受け取れるし、うつ病の治療も対象になる。本当にうつで辛い、会社に行くことができない――そんなときは、この制度を使えば生活費を受け取りながら治療に専念することができる。ただし、当然ながら医師による診断書は必要だ。

傷病手当金は会社員の加入する健康保険制度だけが持つ仕組みで、自営業やフリーの人が加入する国民健康保険に傷病手当金はない。いわば“会社員の特権”だ。

さて、弓子さんがもし転落事故で大ケガをし、不幸にして障害がのこってしまったときは? 会社員が厚生年金に加入中に初めて医師の診療を受けた病気やケガによって障害がのこった場合には、障害厚生年金が受け取れる。年金というと普通は老後の年金を思い浮かべるけれど、イザというとき、若いうちからでも生涯にわたって障害年金を受け取れる仕組みがあることを覚えておこう。