社員がワクワクする環境をつくりたい

さらに、寺西社長には「(BtoBの)目に見えない仕事が多く、果たして当社の魅力は伝わるのだろうか?」という疑問もあった。

「私たちは大手自動車メーカー直系の仕事は少なく、大手自動車メーカーの下請けの会社に材料を納めている会社です。BtoCをやる意義は、自分たちの仕事が役に立ってるんだと実感できることです。やっぱり働いている社員がワクワクする環境づくりって大事だと思うんですよ」(寺西社長)

山一ハガネではYS BLADESだけではく、キャンプ用品の製造や3Dプリンタ事業などを展開している。変わった事業をやっていると社外の見る目が変わる。事実、人材不足が深刻化する昨今において、特に中小企業は採用に苦労しているなか、山一ハガネはあまり困っていないという。

YS BLADESは前述したように利益は非常に少ない。しかし、他社にはまねできないレベルだから、誰もやらないのだ。

採算面以外でも、他社が追随できない要因がある。山一ハガネは、調達から加工、測定、配送まで一貫して行える「ファクトリーモール」という強みがある。材料を自ら調達し、社内で加工できる機械と技術があるからこそYS BLADESが実現したのだ。

まさに、寺西社長が入社以来、周りから理解されなくても取り組んできたことが開花したと言えるだろう。

「危機感」がブレード開発につながった

寺西社長をこれまで突き動かしてきたのは、山一ハガネに入社した時に感じた「付加価値のない商売はいつか廃れてしまう、世の中に必要とされる会社でなければ」という危機感だ。それ以来、どうしたら生き残っていけるか、社員が幸せに働けるかを考え続けてきた。

独自の手腕で会社を成長させてきた寺西社長
撮影=中谷秋絵
独自の手腕で会社を成長させてきた寺西社長

現在、自動車の金型市場は厳しい状況が続いている。YS BLADESなどの自社商品も手がけるが、「あくまでも既存の商売が一番大事」だと寺西社長は強調する。

寺西社長が山一ハガネに入社した当時は景気がよく、大手自動車メーカーの下請けの部品メーカーは、大手メーカーの業績に引き上げられるように右肩上がりだった。山一ハガネは大手と直接の取り引きが少なく、業績を上げる他社を見て、「正直羨ましかったですよ」とこぼす。

しかし現在、金型市場はどんどん縮小し、山一ハガネの周辺でも廃業やM&Aをする企業が増えてきた。指定されたものをつくっているだけでは、生き残りが厳しい時代になったのだ。

「金型市場はレッドオーシャンです。でも、レッドオーシャンで土台をしっかり固めた上にしかブルーオーシャンは成り立たないんですよ」(寺西社長)

あくまでも本業で基盤を築き、YS BLADESのような唯一無二のものづくりをする。寺西社長のこの方針は変わらない。