10キロの鋼材から3%を削り出す製法

話をスケートブレードに戻そう。前述した通り、山一ハガネでのブレード開発は2013年に小塚選手が来社したことがきっかけで始まった。この時、加工チームのマネージャーだった石川さんが担当についた。

寺西社長は「トップスケーターは当然特別なスケート靴を使っているものだと思っていたのに、小塚選手が持ってきた靴は私たち一般人がリンクで借りるようなものと変わらないように見えました」と当時を振り返った。小塚選手は「みんな貸し靴と一緒ですよ」と答えたという。

この時、寺西社長は「うちの特殊鋼を使えばいいものができる」と確信していた。

特殊鋼とは、クロムやタングステン、モリブデン、ニッケルなどの合金元素が添加された鋼材のこと。硬度や耐熱性など、さまざまな特性を持つ特殊鋼が存在し、用途によって使い分けられる。この素材を専門に扱う山一ハガネは、用途や形状に合わせて、どの素材を使えばいいかを熟知していた。ブレードとして使うのであれば、硬さはもちろん、粘りも必要だ。硬すぎればポキッと折れてしまい、粘りが弱いとぐにゃっと曲がってしまう。

また、前述したように鉄同士をつなげる溶接の部分がどうしても強度が弱くなるため、削り出しの一体構造でつくるしかないと考えた。しかし、実際にブレードを作ってみると、10キロの特殊鋼のうち残るのは3%だった。

「最初は収益うんぬんよりも、まず本当につくれるかどうかでしたから。それに、これがうまくいったら喜んでくれる人がいるよねって、それだけでした」(寺西社長)

削る前の10キロの塊を持つ石川さん。ここから270グラムまで削る
撮影=中谷秋絵
削る前の10キロの塊を持つ石川さん。ここから270グラムまで削る
削り出しの工程途中
写真提供=山一ハガネ
削り出しの工程途中

自動車産業のミクロン単位のモノづくりが活きる

寺西社長は「従来のメーカーと同じことをしても、中小企業の我々に勝ち目はない」という考えを持っていた。他の誰もやっていない削り出し製法でスケートブレードを作るのなら、やる意義がある。しかも、当時は国内でスケートブレードをつくっている会社はどこにもなかったから、まさにオンリーワンだ(※現在は、新潟県燕市の有志企業が集まり「燕ブレード」を製造している)

加工方法に関しても、山一ハガネには十分な自信があった。自動車部品の金型製造の業界は年々精度が厳しくなり、ミクロン単位が求められる。紙1枚が約70ミクロンなので、その14分の1ほどの精度だ。当然、人間の目には見えない。

「普段やってる金型製造がミクロンの世界なので、品質には自信があります」と、開発マネージャーの石川さんは胸を張る。

加工途中のブレード。下の部分がまだ削られていない
撮影=中谷秋絵
加工途中のブレード。下の部分がまだ削られていない

では、目に見えない精度をどうやって担保するのか。山一ハガネではミクロン単位の精度を保証する三次元測定機を保有している。ISO17025を取得し、試験所認定を持つ設備で、他社からも測定を依頼されるという。

この噂を聞きつけた小塚選手が、正確な足型を取ってもらおうと来社したというわけだ。小塚選手とのつながりは運によるものだったかもしれない。しかし、これまでに山一ハガネが地道に築いてきた技術力がつないだ縁でもあった。

中谷 秋絵(なかたに・あきえ)
インタビューライター

名古屋市在住。インドでの就業や事務職などを経て、2021年よりライターとして活動。経営者インタビューや地方創生、地域企業の挑戦をテーマに取材を重ねている。熱意を持って行動する人々の物語を発信し、社会をよりよくするヒントを届けることを目指す。インドダンスのパフォーマーとしても活動中。