ブレイン・ハック習慣術 第4回
なぜ「将来のための行動」は後回しになるのか
「将来のために」と始めたはずなのに、運動や学習が続かなかった経験はないだろうか。未来のための行動は、今できなかったからといって即座に不利益が生じるわけではない。そのため、仕事、家事、人付き合いなど、目の前に「今すぐ対処すべきこと」がある場合、どうしても後回しになってしまう。
こうした行動の停滞は、本人の性格というよりも、脳の情報処理の特性によるものだという。2000年ごろから20年以上にわたり、同分野を研究・実践してきた相良奈美香氏はこう語る。
「人は、『今この瞬間にやるべきだ』と判断する明確な合図がなければ、行動を後回しにしてしまいます。『気がついたら1日が終わっていた』という経験は誰にでもあると思いますが、これは単に怠けていたからではなく、行動を始めるタイミングが設計されていなかった、という場合が多いのです」
行動経済学コンサルタント。行動経済学を専門とする博士。米国と日本を中心に、10カ国以上で行動経済学の導入支援を行い、GAFAMを含むグローバル企業に対してコンサルティングを提供。あわせて、コンテンツ制作・配信を通じ、行動経済学を社会に広める活動にも注力している。代表作『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)は19万部を超えるベストセラーとなり、日本における行動経済学の認知拡大に大きく貢献した。
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既存のルーティンに「トリガー」をひもづける
相良氏は、習慣化には“行動の報酬”に加えて、行動のトリガー(きっかけ)を設計することが重要だと指摘する。
「行動を習慣化するためには、『朝起きたらコーヒーメーカーのスイッチをオンにする』というように、具体的な行動の後にひもづけるトリガーが必要です。人は『何かの後に何をする』と決まっていると、ほとんど考えずに動けます。分かりやすいのは『シャンプーをしたらリンスをする』という流れです。シャンプーの後に無意識でリンスをするように、『これをやったらこれをする』というトリガーを設計しておくと、自然と次の行動を起こせるようになります」
さらに相良氏は、トリガーは新しい行動に対して設定するのではなく、すでに回っている日常のルーティンに組み込むべきだと語る。
「新しい行動を増やすこと自体が、脳にとってはハードルになります。既存の習慣に重ねるほうがエネルギー消費を抑えられ、行動は定着しやすくなります。たとえば、『毎週見ているテレビ番組のCM中にスクワットをする』『歯磨きの間にストレッチをする』など、いつもの行動にトリガーを組み込むほうが効果的です」
ネガティブな感情を「投資」へと転換する
トリガーは、物理的な行動だけでなく感情にも設定できる。
「『暇だ』と思った瞬間についスマホを触ってしまう心理状態も、立派なトリガーです。人間には、罪悪感を抱きながらもやってしまう行動の傾向があります。そうした負の感情さえも肯定的な合図として設計できれば、習慣化はより容易になります」
脳が高い集中状態にあるときに多く観測される「ガンマ波」に着目したガンマ波サウンドも、感情をトリガーに設計することで定着しやすくなると相良氏は言う。
たとえば、無意識に見続けてしまう動画などをガンマ波サウンドで視聴すれば、「時間の浪費」という認識が「自分への投資」という前向きな意味づけへと転換される。罪悪感を排除するのではなく、行動を後押しする合図に変えるという発想だ。
「アフェクト管理」で挫折を防ぎ、小さな成功を積み上げる
この考えの根底にあるのは、相良氏が重視する「アフェクト(感情)管理」である。アフェクトとは、行動に伴って生じる微細な感情を指す。
「多くの場合、習慣化したい行動には直近の合理的な報酬がありません。その代わりに生じるのが『面倒だ』『疲れている』といったネガティブな感情です。人はその感情を避けようとして先延ばしにしがちですが、たとえばダラダラと見てしまう動画の音声にガンマ波サウンドを重ねれば、『また時間を無駄にした』という罪悪感が『集中力への投資をしていた』というポジティブ・アフェクトに変わり、行動の定着率が上がります」
ポイントは、新たに時間を設定しないことだ。すでにある習慣、たとえば通勤中の音楽、昼休みの動画、寝る前のスマホ時間などに、ガンマ波サウンドを重ねることを、相良氏は推奨する。
「目標を高く掲げすぎると逆効果になることもあります。まずは1分でも聴けたらOK、スイッチを入れただけでも前進と考える。小さな成功を自分で認めることで、『今日もできた』というポジティブ・アフェクトを生み出すことができます」
習慣とは意志の問題ではなく、構造と感情の設計の問題である。「ガンマ波サウンドを聴く」という習慣は、自身のネガティブな感情と向き合うきっかけとなり、より主体的に日常を設計する視点を与えてくれるはずだ。
【コラム】脳の働きを支えるガンマ波サウンドの新習慣 Q&A
Q:いつ、どのくらい聴くのがベスト? 日常生活に無理なく取り入れるコツは?
ガンマ波サウンドは、40Hzで変調された音刺激を用いた技術で、脳の働きとの関係を探る研究が報告されています。ガンマ波サウンドの魅力は、特別な時間を設けなくても日常生活の中で自然に取り入れられる点にあります。たとえば、朝のニュースを聴く時間や通勤中の音楽、家事や読書の時間など、普段の「ながら時間」にガンマ波サウンドを取り入れてみてはいかがでしょうか。生活の中で無理なく聴き続けることが、新しい習慣として定着させるポイントです。
ブレイン・ハック習慣術
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