「花」ばかりが目に留まりやすい
お祝いプレートを出せば、お客様の喜びの声がダイレクトに返ってきて、サービスする側も励みになります。とはいえ、プレートを作るのは時間がかかります。
そして、フライト中のCAはなかなかの激務です。
長距離線の場合、お食事をお出しして暗くなったタイミングはCAが食事をいただいたり交代で休憩したりできる時間ですが、お客様の人数が多いとその間もさまざまなリクエストがあります。食事は立ったままで飲み込むようにいただくことも日常茶飯事ですし、お茶一杯飲めないときもあります。
まめに掃除をしないとトイレは汚れます。赤ちゃん連れやお年寄りがいたらお手伝いをすることもあるでしょう。
そんななか、バースデープレートを作るというサービスの「花」の部分に集中できるのは、他のCAがお客様にお水のサービスをし、汚れたトイレをきれいにしてくれているからです。サービスのうち、そういった地味な「根っこ」の部分があるから、「花」のようなサービスができる。すべてはチームの協力で成り立っていることを、忘れてほしくはないと考えていました。
「花」のサービスばかりやりたがっていたら、それはいつの日か、いいとこ取りをする根っこのないサービスになります。
また、お客様は記念日のお客様だけではありません。ファースト、ビジネス、エコノミーと3クラスある以上、サービスの種類は3種類となりますが、同じクラスの中では平等が大切です。
地味な「根っこ」に思いをはせる人に
私はチーフパーサーという立場で働いてきたので、目立たない努力をしているCAたちを見逃さないように心がけていました。
あるとき、スリッパでトイレに行こうとしたお客様が、トイレのドアを開けてから引き返し、靴にはき替えていました。それを見ていた若いCAは、「あっ、申し訳ありません!」と、すぐにトイレに入りました。
彼女が察知したとおり、トイレの床はびしょびしょ。スリッパが濡れてしまうから、お客様は靴にはき替えようとしていたのです。
お詫びして、素早く濡れた床を掃除したそのCAはお客様におほめいただき、スターアワードでも表彰されました。スターアワードというのは、客室部門のメンバーが仲間を見ていて「これは感動した、見習いたい」と思った人に贈るもので、受賞者の名札には、小さな星がついています。これはANAのほめ合う文化だと思います。
もしもそうした制度がなくても、陰日向なく働く「根っこ」のサービスができる人は、きっと枝を伸ばして花を咲かせます。
信頼を得ていく人は、地道にがんばっている人。年齢を重ねてもそうありたいですし、目立たなくても誠実な若い人を、きちんと見つけ、認める目ももちたいと願っています。
1953年生まれ。ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」。1974年に入社後、国際線立ち上げのプロジェクトチームに参加。ANAの成長とともに、おもに国際線ファーストクラスで空の上のおもてなしを提供。滞空時間は3万時間超。ていねいに、手を抜かず、「いつでも指差し確認」の初心を忘れない姿勢で45年間のCA生活を続けてきた。食事や体調管理などの身の回りの整え方、「ほしいものより必要なものを買う」というものとのつきあい方、幼児から年長者まで同じように接する人とのつきあい方など、仕事を超えた清潔な生き方そのものが、ANAの伝説として8000人の後輩CAに慕われている。趣味は美術館めぐり、ジムでのエクササイズ、スキューバダイビング、アイロンがけ。ドローンの国家資格も取り、今度は「操縦」側の空も楽しんでいる。
