C1化学、採算までの高いハードル

日揮・保田 隆CTO

【保田】まさにそこ、C1化学を実用レベルにイノベーションできるかどうかが、最大のポイントです。私自身、マレーシアやカタールで、石油メジャーと一緒にGTL(gas to liquids)のプラントの設計、建設に深く関与しました。メタンからディーゼルやナフサなどをつくったわけですが、その過程でLPG(液化石油ガス)などが採れるので採算性が上向きました。ただ、石油系の燃料よりは、オレフィン系のエチレンやプロビレン(合成樹脂や繊維などの原料)、ブタジエン(合成ゴムの素材)などといった高付加価値の化学品を目ざしたほうがいい。技術的にはメタンからメタノールを経由した形が一般的で、プロピレンを生産する技術をわれわれも持っています。C1からカップリングして、エチレンにするとか、あるいはベンゼンにするとか、ハードルは高いけれど難しい技術がないわけではない。問題は、採算性なんです。

【山岡】やはり、そこですか。現在の天然ガス輸入価格の16ドル/MBtuくらいまでメタンハイドレートのガス価格が下っても、ケミカルに使うのは難しいですか。

【保田】ええ。困難ですね。アメリカのシェールガスは4ドル/MBtuでメタノールやGTLの生産も考えられていますが、私のイメージでは、それでもぎりぎりの採算だと思う。カタールの1ドル/MBtuの世界でGTLの基本設計をしましたが、原料費だけで10ドル/bblかかりました。おそらくシェールを使った場合も40ドル/bblくらいの原価がかかっていると推察されます。GTLでは潤滑油などの副産物が採れるから、それに期待しているのでしょう。あるいはシェールガスからLPGを採って、そこで追加販売の利益を確保する。そんな図を描いていると思います。

【山岡】なるほど。メタンハイドレードを、シェールのようなゲームチェンジャーにするには、採算性の壁を突破しなくてはならない。官民一体となった「メタンハイドレート特区」のような構想も必要かもしれませんね。

【保田】そういう大きな構想を国が示してくれれば、間違いなく、民間の開発機運は高まります。現在、海洋産出試験が行われている「第二渥美海丘海域」に近いところに特区を定め、集中的に化学プラントを集めるとか。国家プロジェクトとしての心意気が必要です。