11月中旬までは優れた歴史ドラマだった

さすがに歌麿は、自分の仕事を勝手に決めた蔦重が許せない。だが、抗議しても蔦重の返答は、「正直なとこ、あらたな売れ筋がほしい。頼む、身重のおていさんに苦労をかけたくねえんだよ」。それを受け、歌麿は蔦重のもとを離れる決心をする。実際、蔦重の妻が妊娠していることなど、歌麿には関係ない。蔦重の要求はあまりに自分本位で、歌麿の立場も心情も無視していることに、うんざりした視聴者も多かったのではないだろうか。

もっとも、蔦重のプロデューサーという立場を考えれば、この程度の押しつけがあっても不自然ではない。ただ、大河ドラマの主人公の言動としては、歌麿ばかりか視聴者も離れはしないかと心配になった。

読者はここまで読んで、「べらぼう」のワーストとはその程度か、難癖に近いのではないか、と思ったかもしれない。第3位までに関しては、そういわれても仕方ない。実際、第44回ぐらいまでは、派手さこそないが、史実や最新の研究結果にも忠実で、時代の空気も濃厚に描かれたすぐれた歴史ドラマだった。

だが、第45回「その名は写楽」(11月23日放送)で驚かされた。蔦重は役者絵を出し、それが平賀源内(安田顕)の作だという噂を立て、話題をつくることを思いつく。そして、旧知の絵師や戯作者を集めて制作チームをつくった。だが、うまくいかないところに、第46回「曽我祭の変」(11月30日放送)でチームに歌麿が加わり、歌麿を中心に手分けをして写楽の作品を制作した。この展開を第2位に挙げる。

東洲斎写楽筆「市川鰕蔵の竹村定之進」(東京国立博物館所蔵)
東洲斎写楽筆「市川鰕蔵の竹村定之進」(東京国立博物館所蔵)出典=国立文化財機構所蔵品統合検索システム

写楽の正体は既に判明しているのに

たしかに、140点ほどの作品を世に問うたのち、わずか10カ月ほどで姿を消した写楽の正体は、日本史上における大きなミステリーだったが、現在ではだれであったか特定されている。それは阿波徳島藩主のお抱えの能役者、斎藤十郎兵衛である。その説は斎藤月岑の『増補浮世絵類考』などに書かれながら、十郎兵衛の実在が確認できなかったのだが、近年、複数の記録で明らかになっている。

それなのに、あらたに「歌麿を中心としたチーム説」を打ち出す意味がどこにあったのだろうか。「べらぼう」の登場人物のなかでも一、二を争う知名度の写楽の正体を、やはり一、二を争う知名度の歌麿を中心としたチームとする――。正直にいえば、筆者はドラマとしてはとてもおもしろいと思った。だが、心配なのは歴史への誤解が生じることである。

フィクションによる新機軸を打ち出す場面は、もっと史実があいまいな箇所から選んでほしかった、と思わざるをえない。

そして第1位も、「チーム写楽」からつながっていく。

失脚した松平定信(井上祐貴)を中心に、大奥総取締の高岳(冨永愛)、田沼意次の側近だった三浦庄司、火付盗賊改方の長谷川平蔵(中村隼人)らが、じつは同じ一橋治済(生田斗真)、すなわち将軍家斉(城桧吏)の実父に貶められてきたと気づいて集まり、蔦重も強引に仲間に引き込んだ。

続いて第46回で、「べらぼう」では治済が殺した平賀源内が、じつは生きていると治済に信じさせるために写楽が考案された。そして、治済を町におびき出し、消そうというたくらみが進行したのである。