▼神永正博さんからのアドバイス

集中したいときのとっておきの場所は、何を隠そう電車です。サラリーマン時代、毎日片道1時間かけて会社に通っていましたが、博士号を取るための学位論文は通勤電車の中で書きました。さすがに論文の清書はできませんでしたが、メモに計算を書き込んだり、混雑しているときは乗車前に問題を頭の中に入れ、揺られながら考えていました。論文の下地になる部分は、電車の中で完成されたといってもいいでしょう。

どうして通勤電車がよかったのか。理由は2つあります。まず1つは、まとまった時間を取れること。働きながら勉強する場合、まとまった時間を確保するのは非常に困難です。1日の中で唯一、細切れではない時間が通勤時間でした。

もう1つ、アノニマス(匿名)でいられることも大きいと思います。自分の部屋や研究室で机に向かっていると、電話がかかってきたり宅配便が届いたりして、何かと邪魔が入ります。一方、電車の中は大勢の人がいるにもかかわらず、私を知っている人は誰もいない。自分がアノニマスなら、まわりもアノニマス。そうした環境に身を置くと、かえって自分だけの世界に集中できるのです。

おそらく同じことは多くの人が経験しているはずです。京大の近くに「進々堂」という喫茶店があります。ここは長居が可能で、それなりに混雑していましたが、司法試験の勉強をしている学生や、小声でゼミの授業を行っている先生もいた。適度なにぎわいが勉強にちょうどよかったようです。

集中するのに必ずしも静かな環境は必要ありません。集中力が続かないときは、いっそ外に出て人ごみに紛れたほうがはかどるかもしれません。

神永正博●東北学院大学教授
1967年、東京都生まれ。東京理科大学理学部卒、京都大学大学院理学研究科博士課程中退。東京電機大学助手、日立製作所研究員を経て、東北学院大学准教授に就任。2011年より現職。著書に『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』など。
(村上敬=構成 佐粧俊之=撮影)
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