縦割り組織こそが最も効率がいい

どうすれば巨大な組織をうまく回していけるだろうか。どこかにいいお手本はないだろうか。

私は、最も効率のいい組織運営のヒントは、軍隊にあると考えている。軍隊とは戦争を遂行するためにつくられた組織だ。戦争とは、人間が行う最も危険性の高い勝負事であるといってもよいだろう。負けたら兵士の命は失われ、国は亡びるのである。こうした危険に立ち向かうための組織が軍隊といえる。軍隊は、上意下達の組織だ。上から下まで、1本の指揮命令系統でまとめられている。いい方を変えれば究極の縦割り組織なのである。

軍隊が効率的な理由は、まず、組織の目標が明確なことだ。「戦争に勝つ」それだけである。この組織的な目標に向かって、それぞれの師団、中隊、小隊に対して具体的な任務が命じられる。それぞれの隊は、命令に従って、任務に全力を尽くす。それを積みあげることで、戦争に勝利するという筋書きだ。

さらには、組織を動かすための責任と権限も明確だ。小隊では小隊長が、中隊では中隊長が、師団では師団長がというように、それぞれのレベルで責任と権限が規定されている。もしも、上からの命令がうまく伝達されなかった場合、どこで齟齬が起きたのかがすぐにわかり、その責任を誰が取るかも決められている。組織内で勝手なことはできないのである。

官僚組織について「縦割りの弊害」などと、野党やマスコミは批判するが、軍隊ほどではなくても、縦割り組織には効率的に運用ができるというメリットがある。効率的に研ぎ澄まされた複数の縦割り組織をどう束ねるかというのが上に立つ者、トップリーダーの「指導力」である。しかし、ここまで述べてきたように、リーダーがいくら決断をしても、組織に馴染むように言葉を変え、機能するよう調整するには、現場を熟知した参謀役が必要である。

ここでようやく本題に戻る。そこに登場するのが、優れた調整役であり現場に強いドンである。政界にも官界にも、これまで多くのドンが現れてきたが、中には悪いことをした人もいる。みながみな聖人君子ということではない。しかし、ドンの存在そのものが悪であるというようなことでは決してない。自らルールを変更して改革をするということがあまりなくても、与えられた状況、ルールの中でうまく調整していくことに長けている。組織を熟知することで、どんなに硬直化した縦割り組織でも柔軟に動かすことに抜群の能力を発揮してきた。ドンの存在は縦割りのデメリットを補うことができる。

道具としての官僚組織を使いこなすことがリーダーの条件だと考える。そして、官僚組織に相対するときに、ドンを活用できるかどうかが、リーダーの力量を左右する。

ドンの存在が悪だと結論するなら、最強の敵となってリーダーの行く手を阻むだろう。しかし、味方につけて相談役とすれば、あらゆる窮地を救ってくれる最良の友となるのだ。

6月14日に発売となった拙著『ドン』では、日本のドンの持つ凶暴性、果たしてきた役割について徹底的に論じた。

本書が日本社会にとって資するものとなっていれば幸いである。

(写真=時事通信フォト)
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