私は、経営者や経営幹部を対象とする「西田塾」というセミナーを主宰しています。その講義で私は、経営者に必須の3要素として「知・徳・胆」を挙げます。「知」は戦略・戦術。「徳」は人徳。「胆」は胆力で、ここ一番の度胸。これはスポーツの「心・技・体」に相当します。

さらに、塾生には歴史も学ばせます。主に近代史ですが、教科書的な学習はしません。例えば、何代も遡って先祖を調べ、系図をつくらせるワーキングをします。それは自分が何に由来して、今の時代を生きているのかを意識してもらうためです。戦時下に特攻隊の基地があった鹿児島県・知覧町へ見学に行かせたりもします。

少し脇道にそれるようですが、東日本大震災直後の被災地で暴動や略奪がほとんど起こらなかった日本人の倫理観は、後天的な学習だけでなく、古来伝承されてきた記憶が脳の中にあり、脳幹と大脳基底核がそれに関係しているのではないかと私は考えています。

社会的成功の追求は、今の時代に合った正しい判断により、いわゆる勝ち組になることです。しかし、人間的成功とは勝ち組になることではなく、自分の弱さ、愚かさをも認めて人間性を高めることです。ツキと運を呼びつつその両方を得ようと思うなら、歴史と併せ、脳に伝承されてきた人間性に関わる「知」に目を向けることも大切です。

西田塾で私は経営者たちに「戦略・戦術がいくら優れていても、グランドデザインのない会社は立ちゆかない」と説いています。戦略・戦術は、数値目標を伴い実績を向上させるための手法ですが、グランドデザインは、その根底にある企業の理念です。

戦略・戦術は、時流や市場に合わせて変化するものですが、理念は企業の存在意義であり、確固不動のものです。そして、それは人間の本能に由来する倫理観や社会的な価値観と合致するものでなければなりません。

これは、個人に置き換えても同じ(図3)。グランドデザインは、どういう人間でありたいか、どう生きたいかという理念であり、戦略・戦術はその実現のための具体的な手法です。

ツキや運を強固な味方につけたいなら、それらを漠然と思い浮かべるだけではなく、紙に書き出すことをお勧めします。表現する、すなわち脳のアウトプットは、同時にインプットにもなりますから、理想の自分を言葉に置き換えて明確化すると、脳は自然にそれを実現する方向の思考回路を形成していきます。

面白いことに、「ツイてる」「運がいい」と思える人の周りには、ツキのある人が集まってきます。「ツイてない」「運が悪い」と嘆く人の周りには、ツキのない人ばかりが集まります。ツキのある人同士は、協力者になりやすい。ツキがツキを呼び、運が運を呼ぶという好循環は、そうした人のネットワークによってつくられていくものです。

今後、社会では人間が手がけている仕事の多くが、AI(人工知能)と機械にとって代わられるだろうといわれます。

そうであればなおさら、AIが考えも及ばぬであろうツキと運を呼び寄せる力が必要です。脳の錯覚をうまく使って脳を「快」の状態に保ち、「不快」状態に陥ってもすぐに「快」に戻す。これを習慣づけて、柔軟な思考を持って変化に対処できるよう努めねばなりません。

株式会社サンリ会長 西田塾塾長 西田文郎(にしだ・ふみお)
1949年生まれ。大脳生理学と心理学を使ったトレーニングシステム(SBT)を構築。経営者・ビジネスマンやスポーツ選手の能力開発に携わる。著書に『錯覚の法則』『No.1理論』ほか多数。
(構成=高橋盛男 図版作成=大橋昭一)
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