田舎のまちが可能にする、「人生の実験」

そして、そんな挑戦を、目先の収入にしばられることなく思う存分できるのは、地方のまちだからこそではないかと感じています。

いくら稼げる仕事があっても、それに忙殺されてしまえば新しいことを挑戦する時間はつくれないし、貯蓄の少ない20代の人が、日々暮らすだけでかなりのお金が必要な都会の中で、収入を気にせずに時間をかけて模索する、ということはほとんど不可能です。

つまり、地方の田舎まちに暮らす最大の魅力は、単に飯がうまいとか、余裕をもって生活できるといったことではなく、都会の社会システムの中ではなかなかできない、「壮大な人生の実験ができる」ということなのかもしれません。

「ゆるい移住」の参加メンバーは、それまでの人生が決して不遇だったわけではありません。けれども、「このままでいいのかな」というような、ぼんやりとした違和感はあったのだと思います。そして、鯖江のまちにきて、人生の「改善」なんかではなく、ひたすら「実験」をしていたんだと思います。

「ゆるい移住」が一定の成功を収めることができた要因は、やはり“ゆるさ”にあると僕は思っています。プロジェクトを実施するにあたり、あえて細かいプログラムなどを何も計画しませんでした。部屋の利用方法から生活に必要な物資の調達、実際に鯖江で半年間をどのように過ごすかなどまで、すべて参加メンバーにお任せしました。もちろん、ちょっとしたトラブルやトライアンドエラーはありましたが、ルールや仕組みを最小限にしておくことで、まさに自由な「実験」が促される環境が実現したのです。

このような実験環境を、自治体の公共事業として率先しておこなった鯖江市の決断や、職員のサポート力は、非常に秀逸でした。しかし、おそらく他の地方のまちでも、同じような概念で再現することができるはずです。

まちの商圏規模や求人件数などが、必ずしも人口増加やまちを盛り上げるために必要な要素だとは言えない、そんな時代になってきたのだと思います。「人生の実験」ができる場所を求めている若者が、きっと日本中にたくさんいます。