世間には多くの「天才」がいる。だから上を目指せば、どこかで「凡人な自分」に突き当たり、「天才にはかなわない」と努力をやめてしまう。だが、南海キャンディーズの山里亮太さんは「天才にはなれないので、天才のまねをする“ニセモノの天才”を目指している」と話す。自分の「不完全さ」に悲嘆せず、努力を続けるコツとは――。
慶應義塾大学特任准教授の若新雄純さん(左)と南海キャンディーズの山里亮太さん(右)

お笑いコンビ、南海キャンディーズの山里亮太さんは、「M-1グランプリ2004」で準優勝して以来、浮き沈みの激しい芸能界で第一線に立ち続けている。山里さんはその理由について、「凡人に奇跡が起きた状態が続いている」と称し、「だからこそ努力が続けられる」と話す。サボりたい気持ちに勝つには、どうすればいいのか。前編の“嫉妬と自己肯定”に続き、慶應義塾大学特任准教授の若新雄純さんとの対談をお届けします。

普通の人間コンプレックス

【若新】これは受験制度にも原因があると思いますが、日本人の多くは減点を少しでもなくして完璧に近づきたいという思いが強いようです。プチ成功者にありがちだったのが、持ち物を高級ブランドでそろえたり、環境を整えたりしながら、成功者にふさわしくなさそうなものを身の回りから排除していくことです。でも、人間はどこまでいっても完全体にはなれない。結局はそのギャップに苦しむことになります。完全や完璧を目指すよりも、自分の不完全さやありのままを受け入れていかないと、いつまでたっても自分を好きになれない。

山里さんは、お笑い芸人として“勝ち組”の仲間入りをした後も、伝説を持つ偉人たちとの比較に押しつぶされることなく、等身大の自分と向き合い続けてこられました。「不完全な自分」と、どうやって折り合いをつけてきたんでしょうか。

【山里】自分が大した人間じゃないというのは、すごい人たちに会うと痛感します。(明石家)さんまさんやダウンタウンさんたちと話していると、「天才はスケールが違うな、俺はこうはなれないな」と痛感します。自分はなんて普通なんだ、と「普通の人間コンプレックス」に悩まされた時もありました。もっと「異常な人間」にならなきゃいけない、みたいな。

凡人に奇跡が起きた状態が続いている

【若新】運よく成功してステージが上がると、周囲を意識して、普通ではない、何か特殊な人物にならなきゃいけないという思い込みにとらわれて、空回りしたり、過激な表現で失敗したりしてしまう。SNSが普及して誰でも自由に表現ができるようになって、それがどんどん激しくなっている気がします。

【山里】ただ、僕自身は、自分のことを「凡人に奇跡が起きた状態が続いている」と思うようにしているんです。人は少しでも成功すると、自分の力を信じる力が強くなって、努力しなくてもいいんだと思いがちです。その点、僕は人に恵まれていて、優れたマネージャーさんがM-1(グランプリ2004)の頃から付いてくれていて、「この状況で努力しないと、いつだって消えてしまうよ」と淡々と諭してくれました。

凡人は常に努力し続けなければいけないのに、それでもサボりたい気持ちが出てきます。ある程度実績ができると、「これくらいでも許されるかな」と思ってしまう瞬間がある。そんな時は、「人間の脳みそは、必ず『サボろう』と声をかけてくる。『サボろう』の声を無視して努力できた時に、天才に一歩近づけるんだ」って自分に言い聞かせてます。凡人だから、サボりたい気持ちが強いのは当たり前なんで、それはあきらめています。それよりも、顔を出した「サボろう」を打ち消す自分を大事にしてきました。