「発想の転換」を実現するツールになる

――今の説明を伺うと、3Dエクスペリエンス・プラットフォームは、天才の名をほしいままにした米アップルのスティーブ・ジョブズ氏の代わりが務められそうな気がしてきますね。

【メンギニ】もちろん、ソフトウェアの中にジョブズさんの頭脳を入れるわけにはいきませんが(笑)。ただ、ソフトウェアでできることが何かといえば、ジョブズさんが考えていた思考の転換というか、発想の転換というものを実現するツールになるということは言えると思います。

――ダッソー・システムズは、試作なし“ゼロ”からの車づくりにも挑戦しています。

【メンギニ】まさに、そこがPLMの次の大きな変革点だと思っていますし、次のステップにおける3Dエクスペリエンスの市場戦略そのものです。“Go-To-Market”に変革をもたらすのがわれわれの狙いです。この言葉の持つ意味は、どのような製品のエクスペリエンス(体験)を消費者の方に提供していくかという着想に始まり、価格設定やその製品をどう販売していくのか、プロモーションまでを含めたマネジメントサイクル全体を指しています。

――ところで、日本は今、エレクトロニクス産業を中心にモノづくりの弱体化が顕著です。その理由はさまざまですが、ひとつに3Dの設計・試作に出遅れたことが原因ではないかと言う人がいます。

【メンギニ】3Dだけの問題ではないと思います。3Dを使って単にモノをつくるというよりは、3Dでモノを考えることによって俯瞰的に対象が見ることができる。そういう意味で3Dを利用する重要性について、私もあなたと全く同じ意見を持っています。

――日本のモノづくりの強さを表わす言葉として、よく「擦り合わせ技術」が強調されます。でも、そうしたいわゆる匠の技が、3D技術によって代替されつつあるのが現状ではありませんか。

【メンギニ】私はイタリア人です。イタリアというと、匠の技、手仕事、それからハイテク技術を使わなくても創造力を発揮するというのが私たちのお国柄でもありますので、やはり自分たちのすばらしい文化は変える必要がないと思います。3D技術というのは代替品ではなく、自分たちが自分たちであることを補強してくれる、あるいはよりスピーディに実現してくれるツールだと考えています。

――最後に、ドイツが国を挙げて進める、車体とロボットが“会話”しながら組み立てていく、考える工場ともいえる「インダストリー4.0」の試みをどう見ていますか。

【メンギニ】ドイツが提唱しているのは、あくまでもグッズ(製品)というかモノの世界にとどまっていて、どちらかというとマーケティングの要素が強い。インダストリー4.0が、今のところ具体的に何をしているか見えてきていませんので、はっきりしたことは申し上げられませんが、われわれの3Dエクスペリエンス・プラットフォームとは基本的に同じものだとは考えていません。

※3DS IFWE Compass https://www.youtube.com/watch?v=AXs9l36R6U8

モニカ・メンギニ
ダッソー・システムズ インダストリー、マーケティング&コーポレートコミュニケーション担当 エグゼクティブ・バイス・プレジデント
ローマ大学で法学士号を取得。広告会社のSattich&Saatchi、P&Gを経て、07年にダッソーシステムズに入社し、09年から同職。元プロのバレーボール選手として活躍していたこともある。
(宇佐美雅浩=撮影)
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