「カネヤン、ちょっといいか。次号で取材してほしいところがあんねん。新聞奨学生って知ってるか?」
1月中旬、関西弁の編集長に呼び出された。
「あの新聞配達しながら大学に行くっていう制度ですか」
「そう。一度、きちんと誌面で紹介したいと思ってたんや。今回はそれを1週間体験してきてほしいねん。取材の間は、お前に奨学生として生活してほしいから、会社に来たり、家に帰ったりできないよう、関西で取材してきてくれ」
私(カネヤン)は編集部に異動して1年。比較的出勤時間の自由な職場に甘え、すっかり夜型生活が定着してしまった。“お前、今日も眠そうやな”と挨拶代わりに言われる、フレッシュ感ゼロの入社3年目社員だ。
読売新聞大阪本社の奨学会が密着取材を快く引き受けてくれたものの、私が学生時代にやったアルバイトは、家庭教師と新聞の切り抜きのみ。体力的に新聞配達が務まるとは思えない。それに、奨学会の資料によれば“朝刊配達開始午前2時~”とある。
「普段起きている時間やし、カネヤンには案外向いているかもしれんな」
何とかなるだろうと自己暗示をかけ新幹線で大阪に向かった。
取材初日。YC(読売センター)上新庄店にて、密着取材をする新聞奨学生の岸田琳太郎(りんたろう)君との顔合わせ。ここから1週間、岸田君の下宿先に寝泊まりし、一緒に配達業務を行う。
岸田君の住居は4畳半一間の風呂なしアパート。
「家賃のほとんどを販売店が出してくれているので、助かっています。お風呂は販売店のシャワーか近くの銭湯に行っています」
私は普段の生活通り、朝刊の配達時間まで起きていようかと思ったのだが、岸田君に早速たしなめられる。
「寝とかないと体がもちませんよ」
夜11時ごろに就寝。日付が変わる前に寝るなんて、何年ぶりだろうか。