後述するが、ダイハツは従来にない体制で開発に臨み、低燃費技術「イーステクノロジー(Energy Saving Technology)」を完成させる。

ところが、ミライース発売の3カ月後に当たる11年12月、冒頭で本田が指摘する通りスズキは30.2キロのアルトエコを発売。0.2キロと“鼻の差”で、王座を奪ったのだ。

「悔しかった……」。ミライースの開発責任者を務めた上田亨(現在は執行役員)は僅差の逆転に話が及ぶと、今でも唇をかみしめる。

「ただ、我々のミライースは入り口のクルマから一番グレードの高いクルマまで同じ燃費なのです。どのグレードを買うお客さんにも差別なく低燃費を提供したいから。そこは勝ったというか、思想が違うのだと思います」

一方スズキサイドは当時、「やるべきことをやったら、30.2となっただけ。ミライースを意識したわけではない」(スズキ首脳)と話していたが、この攻防を機に軽自動車「低燃費戦争」の火ぶたが切って落とされる。

スズキの総大将である鈴木修会長兼社長は「小数点以下の争いに意味はない。整数でいきなさいと開発現場に指示した」と話す。同時に「カタログ数値をやみくもに上げるのではなく、実際の燃費数値との差をなくしていくことを考えよ」とも現場に伝えていた。

やられたらやり返す

さて、軽自動車は8割が乗用で、2割が軽トラックなどの商用だ。メーンの乗用は、今は大きく3つのジャンルに分けられる(図参照)。

図を拡大
自動車のタイプ解説(PIXTA=写真)

(1)全高が1700ミリ以上の「スーパーハイトワゴン」。近年急に伸びている。
(2)全高が1500~1700ミリの「ハイト(トール)ワゴン」。構成比は一番大きい。
(3)従来からあるハッチバックの「セダン」。

かつて軽は(3)だけだったが、93年発売のワゴンRにより(2)が生まれ、03年登場のタントが(1)の先駆けだ。

セダンで始まった低燃費戦争は、翌年には大票田のハイトにも広がる。

12年9月にスズキが発売した5代目ワゴンRは、28.8キロを達成。ガソリンを使わずに減速時に回生発電する新技術の「エネチャージ」搭載が大きかったが、従来モデルの23.6キロより22%も燃費性能を向上させた。