また、顧客や一般社会の心理を理解しておくことも重要です。

日本社会における危機管理、とりわけ謝罪は非常に簡単で、非常に難しいという特徴があります。

日本人の国民性には、『論語』に書かれている「過ちて改めざる、これを過ちという」があります。そのため小さな過ちでもきちんと改めないと、みんなから徹底的に攻撃されてしまいます。同時に「判官びいき」という言葉があるように、弱い状態に陥った人をひいきする傾向もあります。

ですから、問題を起こしてもきちんと改めれば驚くほど簡単に許してもらえる一方、どんな小さな問題でもきちんと謝罪しなければ「わかっていないぞ」と徹底的に攻撃を受けます。

危機管理とは人間および人間社会への洞察力に尽き、そうした社会心理を理解しておかないと適切な対応ができないのです。

そしてビジネスパーソンなら最近の企業不祥事を対岸の火事とは思わず、「もし自分があの経営者の立場だったら、どう謝罪すればよいだろうか」としっかり考えておくとよいでしょう。

いま、いろいろな企業で表面化している問題よりも、スケールは小さいかもしれませんが、職場や取引先との関係においても日々、相似形で起きています。

職場でミスを犯したり取引先を怒らせたりしたとき、問題から逃げたり戦ったりしてはいないか。2つの「とうそう本能」に支配され、遅刻したのに「渋滞に巻き込まれました」と暗に「自分は悪くない」と言い訳し、信用を失っていないか。これは家庭や私生活においても同じです。

危機管理の実例を疑似体験しておけば、思わず逃げたり戦ったりする言葉が出そうになっても呑み込むことができ、仕事も家庭もうまくいくようになるはずです。

(構成=宮内 健)
【関連記事】
ソニー、ユッケ社長……なぜ、トラブル謝罪で失敗したか
「ネット炎上」する会社、しない会社
「クチコミはコントロールできない」のウソ
よもやの不祥事で断行した「顧客の信頼」回復策 -サイゼリヤ
クレーマー -「土下座しろ」と言われたらどうするか