謝罪会見で大失敗した阪急阪神ホテルズはその後、直ちに出崎社長が辞任したのでそれなりの解毒はできたと思いますが、これからの「再生」は非常に大変になるでしょう。

「再生」とは顧客との信頼関係や社員のモラルといったインフラの修復と、出口戦略を仕込むことを指します。

辞任で解毒したからといって、信用を取り戻せたわけではありません。信用できない会社はイメージが悪くなります。すると、結婚式や叙勲のパーティなどの慶事、すなわちホテルやレストランにとってドル箱の収入源は大きくダメージを受けるでしょう。

もし、あなたの子供が結婚することになり、「阪急阪神ホテルズで結婚式を挙げたい」といったら、「なぜあの阪急で?」と疑問を感じるはずです。

結局、信用は何年もかけて取り戻すしかありません。信用を失うのは一瞬、取り戻すのは10年かかると心得るべきです。

自分たちの起こした問題に対して謝罪せずに逃げる、あるいは「これは誤表示だ」といい張ってメディアと戦ってしまい、謝罪に失敗する。その根底には「逃走」と「闘争」という2つの「とうそう本能」があります。

猪瀬直樹都知事は「5000万円は借りたお金だ」といってメディアと戦いました。しかし、どう考えても親しくない相手に無利息で、期限も決めずに大金を貸す人はいません。普通は貸さない大金をこれから知事になろうという人間が借りたら、相当な恩を受けたということになります。その恩はどこかで返さないといけないでしょう。

だから猪瀬都知事の対応は明らかに間違っていますが、「借りたお金」と開き直りメディアと戦っている。それは都民に対して真摯に謝罪していないということにほかならず、すっかり信用を失ってしまいました。

政治家も経営者も芸能人も、信用を「木」に例えるとわかりやすいと思います。人としての信用という幹があり、政治家としての信用という枝があり、その先に知事という果実が実る。

不祥事を起こしたときはこの実がポトンと落ちないと、つまり知事を辞任しないと、みんな実を落とそうとして枝をゆさぶります。枝をゆさぶって落ちなければ、こんどは幹をゆさぶり始めます。それはマスコミだけでなく議会も揺さぶり始めるでしょうし、都庁の内部告発や過去に付き合った女性など、いろんな人が揺さぶります。

そうなれば幹が傷つき、人としての信用まで失う結果に陥ります。

しかし、最初にみんなが納得する説明をきちんとすれば、枝や幹まで揺さぶられることはありません。

2つの「とうそう本能」は誰でも持っている心理ですが、危機に際して公人がそれを出してしまうと危機管理、とりわけ「解毒」に失敗します。

こうした事態を防ぐには「感知」「解析」「解毒」「再生」という危機管理の理論を頭に入れておくことです。そうすれば問題が起きたとき、何に気をつけ、何をすべきかが見えてきます。