“女のプロ”川崎貴子さんと“男性学”が専門の田中俊之さんの対談第3回。「女性は下手に出て、男性を持ち上げてしまいがち」「仕事ができない上司をおだてるのは会社の不利益」「男こそ育休を取るべき理由」について語り合います。

上司をおだてることは、会社の不利益である

――女性は下手に出て、男性を持ち上げてしまいがちという話、非常に耳が痛いです(参考記事:なぜ結婚したがらない若い男性が増えているのか)。私自身も仕事ができない男性上司に対して、ついそうしてしまった経験があります。そのほうがうまくいく場面もあって……でも確かに、むやみに持ち上げたりおだてたりするのは、上司のためにもよくないですね。

【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】会社にとって不利益ですよね。大学にも上下関係はあるので、先生とチームを組んで取り組まなくてはいけない時が私もあるんですが、優秀な人が上司だとやっぱり物事がはかどるし、こちらの仕事も早く終わるから、楽なんですよ。だからおだてられないと動けない上司の存在には困ってるんじゃないかなと思うんですよ、企業では。

【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】困るでしょうねぇ。

――昔の会社は年功序列だったので、自分より目上の人は無条件に偉かったですよね。しかも女性の先輩は滅多にいなかったので、だいたい目上の男性が自分のボスということが多かった。だから、目上の人を立ててしまうのが習慣付いて、つい無意識にそうしてしまう……という面もあったと思います。今は会社も変わってきて、実力主義、成果主義の組織も増えてきた。若くても上司、年上でも部下ということが珍しくなくなり、立場の上下、年齢の上下、性別は男女……と組み合わせが増えてきて難しい。やりづらさを感じている方も多いと思います。

【川崎】これからは、年上の男性に対して性差を意識して持ち上げたりせず、フラットに付き合うことが重要な社会構造、職場の人間関係になっていくと思うんです。

ジョヤンテ社長 川崎貴子さん

女性が辞めたり転職したりするのを見ていると、仕事が回る/回らないではなくて、半径5メートルくらいの人間関係が原因なことが多いです。だから、自分のいる場所を居心地よくするためにそう言っているというくらいならいいのですが。でも、もっとフラット化していかないと、本人も参っちゃうんじゃないでしょうか。この人にはこういう立て方をして、この人はこうやっておだてて……なんてやっていると、それこそ本業にも身が入りませんし、疲弊してしまうと思いますね。もちろん年上の人に敬語を使うとか、礼儀正しくするというのはいいことだし、やらなきゃいけないことですが。

――敬語は必要だけれども、必要以上に立てたりおだてたりするのは、むしろ組織のためにもよくないと。

【田中】仕事をしてるんだから、上司との人間関係も仕事として考えればいいことです。そこで別に年下の上司がいたり、女性の上司がいても、その場面での役割分担なんですから。別にその人が否定されてるわけでもなければ、逆に偉いわけでもないですよね。どちらがリーダーでどちらが下と決めていかないと、仕事はできないですから。それを、プライベートな部分まで含めて気にしすぎるということがよくないですね。女性が上司であろうが、年下が上司であろうが、その仕事がうまくいけばいいだけのこと。

【川崎】これからは本当にそうなってくると思いますよ。今の評価制度って上司が評価しますよね。その仕事の裁量ではなくて、長時間会社にいたとか、組織への帰属意識がどれくらいあるかとか、どれだけ愛社意識があるかとか、いわば忠誠心みたいなものが評価されがち。そういう評価をするのが、仕事ができない目上の男性だったとしたら……そりゃあ下手に出て「すごいですね~」とおだてたくなる気持ちも分かります。

でも、与えられたミッションやタスクに対してどれだけ達成できたか、実績に基づく評価制度になっていけば、女性の問題だけでなく、ダイバーシティで問題になっているいろんなことも解決するんじゃないでしょうか。

男性も時短勤務が当たり前の時代がくる

【田中】ぼくも今の意見にまったく賛成です。今の企業に必要なのって、評価の仕組みの作り直しだと思うんです。だってこれからはいろんな働き方をする人が出てくるわけじゃないですか。男でも育児休業を取るかもしれないし、時短勤務を選択する人もいるでしょう。

武蔵大学助教 田中俊之さん

今までは、そういうものは女性だけが取るもので、男性は取らない、フルタイムで働くものだということでマネジメントをすればよかった。でも、これからはいろんなパターンが出てきますよ。

【川崎】ホント、そうなんです! 現場でもよく話すんですが、いまやもう「超未婚時代」じゃないですか。特に30代の男性なんて、彼らが40歳くらいになったときの未婚率がすごく高いわけです。今までの男性は脈々と、自分の母親の介護を奥さんにやらせてきたわけですが、結婚していない男性にその手は使えない。介護はこれから男性にとっても、自分自身の責任になりますからね。30代の男性にとっては、時短で働く時期がやってくるというのはもう、ひとごとではないんですよね。

すでにこういう時代背景なので、私も「時短で働くってそれ、女性活用の話だけじゃないよ? 君たちのことでもあるんだよ」と思いながら男性に話してるんですけど、全然分かっていないというか……。

【田中】しかも介護が育児と違うのは、終わりが見えないことです。子供は大きくなるにつれて手がかからなくなる。何年後、この子が何歳になればこれくらい手を離れるだろう、という予測が付きますが、親は何年後までその状態で生きるか分からないわけで。

――それどころか、認知症が進んだり、病状が悪化して、介護の負担がキツくなる可能性もありますね。

【田中】そうです。介護は逆に年々ヘビーになっていくかもしれない。それだけに、その“ひとごと感”はまずいですね。非常によくないです。

今「女性活躍」と言われている話は、たまたまそういう名で呼ばれているだけであって、これからの人にとっては、男女問わず全部当事者問題なんです。いざ自分が親の介護で忙しくなったとき、有休休暇をたくさん取らなきゃいけないとか、時短勤務をしなくてはいけない必要はきっと出てきます。でもそうしたらもう組織で評価してもらえない、となったら、やっぱりモチベーションが上がらないですよね。

男性も育休を取らなければならない理由

【上】『結婚したい女子のためのハンティング・レッスン』川崎貴子(総合法令出版)』【下】『<40男>はなぜ嫌われるか』田中俊之(イースト新書)

――時短勤務を選んだ結果、組織で評価してもらえず、モチベーションが上がらない……子育てのために時短勤務をする女性の悩みと、まったく同じ状況ですね。

【田中】育児休業を取った男性に話を聞いたことがありますが、「半年休んだだけで仕事のやり方も忘れちゃってるし、毎日会社に行かなきゃいけないというだけで辛くなっていて、復帰したときにとても大変だった」と。従って「あんまりおすすめできない」と言うんですよ。でも、それは逆。だからこそ、育児休業を取るべきなんです。

――男性も育休を取るべきだ、と。

【田中】取るべきです。だって出産した女性は、みんな1年くらい休んでいるわけで、それが現実なんですから。こういったダイバーシティの問題については「女性のためにやってあげるんでしょ」と思いがちで、口に出してそう言ってしまう人もいますよね。しかし役職者、上の世代の人たちだけでなく、若い人たちでさえそう思っているという現状は、非常によくないですね。

●“女のプロ”川崎貴子ד男性学”田中俊之 対談記事一覧
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回  「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
川崎貴子
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。