世の中に流通している情報量は莫大に増え、2050年までには現在の4000倍になるとさえ言われている。自宅に誘致したお酒のセレクトショップ「IMADEYA」の社外取締役を務める小島雄一郎氏は「映画選びも、飲食店選びも、日常が選択肢と判断材料で溢れているため、私たちは『(考える)時間が足りない』と常に感じている」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、小島雄一郎『「選べない」はなぜ起こる?』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

渋谷宮下公園の飲食店街
写真=iStock.com/ai_yoshi
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飲食店界隈で急速に普及した「コンセプト○○」

飲食店にとって入店前の評価が重要になり、「選ばれるハードル」が上がる中で、ある興味深い現象が広がっている。それがコンセプトブームだ。

「猫カフェ」「昭和レトロ居酒屋」「釣り居酒屋」「忍者レストラン」。これらはすべて、明確なコンセプトを掲げた飲食店だ。

コンセプトなんて言葉は、それまで広告やマーケティング界隈の人たちの業界用語だった。それが今や、コンセプトカフェ、コンセプト居酒屋、コンセプト寿司屋まで登場し、「コンセプト○○」が乱立している。

なぜこの言葉が飲食店界隈で急速に普及したのか? それは、コンセプトが「選ぶ理由」や「選ばれる理由」に直結するからだ。

コンセプトとは一般的に「一貫した方向性」といった意味で使われる。それがある場合と、ない場合では何が違うのか。その違いが「選びやすさ」だ。コンセプトがあれば選びやすい。コンセプトがなければ、選びにくい、ということだ。この手法は新規参入する飲食店にとって有効な戦略だった。

新規飲食店は「選ぶ理由」が少ない

コンセプトには、評判と同じような効果がある。

現代において、新規出店の飲食店を選ぶのには勇気がいる。判断材料が少ないからだ。つまり「選ぶ理由」が少ないのである。だから評判が安定している老舗や、インフルエンサーのお墨付き店舗に流れてしまいがちだ。

しかし店側からコンセプトが提示されていれば、選びやすい。そのため近年、新規出店の飲食店は自らコンセプトを掲げるようになった。

「なぜこの店を選んだのか?」という選ぶ側が背負った説明責任を、選ばれる側で負担しようとした。それが近年のコンセプト飲食店増加の背景だ。「うちの店はこう楽しめばいいんですよ」と、明確に言語化して伝える。いつしかそれが飲食店にとって当たり前の所作になりつつある。