部下に的確な行動を指示するにはどうすればよいか。行動科学マネジメント研究所所長の石田淳さんは「抽象的な言葉を具体的な行動にかみ砕くことが大切だ。MORSの法則の4条件を満たすものだけを行動ととらえると、相手への指示も評価も格段に明確化する」という――。

※本稿は、石田淳『【新版】教える技術 行動科学を使ってできる人が育つ!』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

困った顔が描かれた紙袋をかぶっている人
写真=iStock.com/JNemchinova
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曖昧な表現では部下に伝わらない

「真心をこめて接客しなさい」「しっかりやれ」「できるだけ早く提出を」……。

この3つの指示の仕方に共通していることは何だと思いますか?

正解は、いずれも表現が曖昧かつ抽象的だということです。

行動を指示するときには、できるだけ具体的に表現する必要があるのに、実際はこういった曖昧な表現しかしていない上司がとても多いのが現状です。

これでは、部下はどんな行動をしたらいいのかわかりません。

特に、優秀でどんな仕事も感覚的にできてしまうような上司は要注意です。

「真心をこめる」の場合、たとえば“商品は必ず両手で渡す”“そのあとお客様の目を見てから会釈をし、そのまま3秒間静止する”というふうに具体化すれば、誰でもその行動ができますし、サボりようがありません。そうすれば、お客様からは「このお客の接客には真心がこもっている」と感じていただけることでしょう。

「できるだけ早く」では、人によって連想する期間がまったく違うので、“明日までに”“月曜朝までに”“今月中に”などと明確にしないといけません。

「歩きながら走れ」と言われているのと同じ

そして、もうひとつありがちなのが、「顧客第一主義」と「利益追求」のように、相反する内容を同時に求めるような指示の仕方です。

これも、表現が曖昧であることが元凶。こんなふうに指示された部下は、“歩きながら走れ”と言われているように感じてしまいます。

人は「歩きながら走れ」という相反する行動を命じられたらどうするか?

その反応には2種類あります。

ひとつは、走ることも歩くこともしなくなる、つまり行動をやめてしまうこと。

もうひとつの反応は、走るのとも歩くのとも違う中途半端なスピードで前に進むこと。自信を持って“歩く人”や“走る人”はほとんど現れません。

本当にやらせたい行動や、身につけさせたい業務があるのなら、その内容をできるだけ明確かつ具体的に表現しなければダメだということです。

試しに図表1の問題を解いてみてください。回答はこの記事の一番最後です。