全世界で爆発的に流行している理由
現在、全世界で麻疹が流行して過去25年間で最多の12万7350件となり、異例の事態になっています。アメリカでは、2025年4月3日の時点で607人が感染して3人が死亡したと伝えられています。ベトナムの感染者数はもっと多く、去年から在ホーチミン日本総領事館から注意喚起がされていましたが、2024年秋から2万人を超える感染者が出ています。
日本でも麻疹の感染者が毎週のように報告されていて、2025年は4月9日時点で66人です。先日はベトナムへの渡航歴のある男性が、帰国後に東京で麻疹を発症しました。ユニセフは、欧州・中央アジアに、はしか感染急増のため緊急対策をと呼びかけています(※3)。
こうして麻疹が流行しているのは、新型コロナのパンデミックのためにロックダウンがあったり、新型コロナ患者のいる医療機関に行くことを避けたりしたため、麻疹ワクチンを受け損なった人が多いからです。そのうえ、新型コロナワクチンをきっかけにワクチンに懐疑的になったり、子どもはどんな感染症でも軽症で済むという間違った考えに陥ったりした人もいるのかもしれません。
※3 「欧州・中央アジア、はしか感染急増 12万7350件と過去25年で最多 ユニセフら緊急対策を呼び掛け」(unicef)
ワクチン不信によって感染症が再興
アメリカでは、米食品医薬品局(FDA)の責任者が「ケネディ厚生長官はワクチンの安全性に関する『誤情報』を広めようとしている」と辞任を表明し(※4)、トランプ大統領は医療費にも関税をかけるといっています(※5)。さらにアメリカはWHO(世界保健機構)を脱退し拠出金を停止すると表明しているので、今後も全世界の疾病治療・予防対策に悪影響が及ぶでしょう(※6)。
これまでもワクチン不信による感染症の流行は繰り返されています。天然痘やポリオなど感染症の大きな流行があり、人々が感染したらどうなるかを実感して恐れているとき、ワクチンは歓迎されて接種率が上がります。ところがワクチンが普及して感染者が減ると、感染症の怖さを知る人がいなくなり、ワクチンの副反応が過大に注目されます。そしてワクチンへの恐怖や不信感が増すと接種率が下がります。そして今回の麻疹の世界的流行のように、排除されていた感染症が再興します。
「ワクチンを勧めるのは、製薬会社や医者が儲けたいからだ」と発言する人もいますが、ワクチン1人分の価格は5000円前後で、2回受けて医師が受け取るのは数千円です。製薬会社も医師も、それほど大きな利益はありません。麻疹感染者に熱や咳に対処するための薬を長期間処方したり、入院させて治療をしたりするほうがずっと利益が出るでしょう。
※4 「米ワクチン責任者が辞任、ケネディ厚生長官が『誤情報』推進と主張」(Bloomberg)
※5 「トランプ氏、医薬品に『大規模』関税 近く発表へ」(ロイター)
※6 「公衆衛生にもトランプ・ショック、米WHO脱退の影響は?」(MIT TECHNOLOGY REVIEW)


