生活は過酷だったが、遊女同士で助け合うこともあった

山家悠平氏が論文「闘争の時代の余熱のなかで森光子『春駒日記』の描く吉原遊廓の日常風景」(2022年)でも指摘しているように、日記は、遊女の生活の苛酷さを訴える一方で、遊女同士の友情や、助け合う姿も描いている。

先述した罰金のように、遊女たちが、店側への不満を語り合う場面は複数回登場し、現代の私たちの多くもイメージできるシチュエーションで、共感しやすい。不満は食事に関しても語られていた。冷めきった夕食について二人の遊女が「こんなに寒いのに、蒸かしたってよさそうなものに」「まったくだよ、腹の中が凍ってしまいそうだよ」などと言い合い、「馬鹿にしていらあ」と怒りを隠さなかった。光子はそのやりとりを聞いて、こうした境遇は仕方ないとあきらめてしまわない姿に「救われる気」がした、と明かす。