裁判員制度の裁判員に選ばれたら、特別な事情がないかぎり辞退できず、選ばれたくないと思う人は多い。2018年に強制性交等致傷罪の裁判を担当した会社員の女性は「たしかに、事件の生々しさも含め、自分1人では受けとめきれないほどインパクトが大きかった。でも、二度目の機会があったらぜひまたやりたい」という――。

※本稿は『裁判員17人の声 ある日突然「人を裁け」と言われたら?』(旬報社)の一部を再編集したものです。

裁判員裁判が開かれた仙台地裁102号法廷(宮城・仙台市青葉区)
写真=時事通信フォト
裁判員裁判が開かれた仙台地裁102号法廷(宮城・仙台市青葉区)、2010年8月23日 ※記事中の事件とは異なる裁判です

強制性交等致傷罪で被害者の同意があったと誤信したかが争点

裁判員経験者:A.S.さん
会社員の女性。裁判員をつとめた当時は50歳代。趣味は部屋の整理整頓、居心地のよい空間でアールグレイを飲みながらゆったりと過ごす時間が至福のひととき。

――はじめに担当された事件についてお聞かせください。

【A.S.】2018年に行われた裁判で、罪名は強制性交等致傷罪です。争点は各種暴行があったかどうか、被告人が被害者の同意があったと誤信したかどうかの2点でした。

――裁判員に選任される段階では、どのようにお考えでしたか。

【A.S.】このような機会はめったにないし、せっかくなのでぜひつとめたいと思いました。

――裁判員制度の知識のほどはいかがでしたか。

【A.S.】なんとなくしか知らなかったので、裁判所から送られてきたパンフレットを熟読しました。黙秘権・無罪推定の原則は、たしか学校で学びました。

――裁判員経験者の話を聞かれたことなどはありますか。

【A.S.】ありません。経験者の交流団体についても知りませんでした。とくに聞いておかなくてもよかったと思っています。先入観が入ってしまうので……。ただ、ランチはどうするのか、洋服は何を着ればよいのかなどの実際的な情報は、事前に知っておくと心配の種が減るのでよいかと思います。

――審理のようすを教えてください。

【A.S.】審理が2日、評議が3日、プラス判決言い渡し、という日程でした。実日数は6日間です。

検察官の主張も弁護人の主張もどちらも十分理解できました。ともに事前の準備がよくなされている印象を受けましたね。質疑応答も簡潔明瞭で、質問の目的も明確でした。

性加害者は街中で会っても違和感がないような普通の外見

――審理のなかで判断材料はそろっていたと感じますか。

【A.S.】証拠がわりあいそろっていた事件だったと思います。検察官、弁護人どちらの資料もわかりやすく整理されたもので、大変参考になりました。とくに弁護人の資料は評議の際にかなり活用しました。

――その他審理中に印象的だったことはありますか。

【A.S.】まずは被告人が街中ですれ違ってもなんら違和感を感じないような普通の人だったこと。また、弁護人が非常に優秀だと裁判官が絶賛していたこと。被害者のそばには常に被害者参加弁護士がついていて、意見陳述では性被害の実情や被害者の心情を客観的に述べていたので、被害者にとっては心強いことだろうと思いました。事件当時の証人の勇気と行動力にもいたく感心しました。それから、「異議あり」はほんとにあるんですね(笑)

――事件の証人について、具体的にはどのような点に感銘を覚えられたのでしょうか。

【A.S.】証人は事件当夜、たまたま目をさましたときに女性の声を聞いたそうです。その声に違和感を覚え、ためらいつつも外に出て声のしたほうへ行ったら、路上に女性の持ち物が散乱していたと。これはおかしい、と考えて110番通報されたそうです。