陰気な自分を変えたきっかけは「結核」
渋谷の喧騒から少し離れた閑静な住宅街。そこに美容家・川邉サチコさん(86歳)が、娘のちがやさんと運営する「KAWABE.LAB」がある。室内に一歩足を踏み入れると、高い天井と大きな窓が広がる開放的な空間に、センスを感じさせる家具が並ぶ。その一角には、大きな鏡と椅子。ここで川邉さんは顧客を美しく生まれ変わらせている。
ふんわりとしたホワイトブロンドのヘアをアップスタイルにまとめ、トレードマークにもなっているメガネ、そして華やかな赤い口紅のメイクで立つ姿は、まさに凛とした大人の女性そのものだ。華やかなファッション業界の第一線で活躍していた往年の姿が今も伺える。
自宅兼オフィスとなっているこの場所で、現在は娘夫婦、そして孫夫婦との三世帯暮らし。愛犬のトイプードルが相棒だ。
川邉さんのルーツは、東京・日本橋。ハンカチ問屋の娘として生まれたが、小さい頃は引っ込み思案のいじめられっ子だった。転機が訪れたのは、中学2年生のとき。結核で余儀なくされた1年半の自宅療養中に、“陰”から“陽”へと性格が180度変わったという。
「自分はもう死んでしまうと思い込んでいたのね。だから、すごく自分に向き合っていろいろ考えたんです。もし元気になったらどう生きたいか、と」
結核が治り学校に戻ったときには、周りから「人が変わったようだ」と驚かれるほど自分を主張する性格に。「あのとき、今の自分ができ上がったような気がします」と川邉さんは笑う。