ただ楽しむだけじゃなくて「勝ちたい」
本記事は11月22日に発売したばかりの博子さんの新刊でありレシピ本『幸せな最期を迎えた91歳 ひとり暮らしの食卓』(宝島社)内のインタビューの一部を引用、編集したものですが、博子さんはその本ができる前に旅立たれました。以下は博子さんから引き継ぐ形で本を完成させたという娘さん、夕湖さんの言葉です。
ある夜のLINE電話で、母から新しい本の企画があることを聞きました。Xに毎日の食事を投稿するようになってから、その反響も喜んでいた母だったので、私は素直に喜ばしく思い、「いいんじゃない、やってみたら?」と答えたんです。
まさか、その本ができる前に旅立ってしまうとは思いもしませんでした。
ロンドンから帰国して、母の家に到着したとき、ふと壁にかかっていたカレンダーに目をやると、そこには先々の予定がいくつも書き込まれていました。健康麻雀の日、友人との食事、通院の予定。そして、本や雑誌の取材。日々を楽しんでいた母の暮らしを想像し、切ない気持ちがあふれました。
そして今回、私自身が母から引き継ぐような形で、本づくりをしてみて、90歳で取材を受けて、原稿をチェックして……というのが、どれほど大変だったかということを実感しました。
麻雀でもただ楽しむだけじゃなくて「勝ちたい」という思いがあったように、「やるからには多くの人に届けたい」という熱意が母を動かしていたのかもしれません。
「博子さんから元気をもらっています」
「大崎さんをお手本に頑張ります」
そんな声をいただいて、母は本当に喜んでいました。
この本も、今の生活に悩んでいたり、老後の不安を抱えていたりする人にとって、何か少しでも役に立てたら、という気持ちで考えていたはずです。
そんな母の想いを形にできたとしたら、こんなにうれしいことはありません。みなさんの食卓が、いつもより楽しく、豊かなものになりますように。
空から見守ってくれている母、いつも支えてくれる家族、母とつながってくださったすべての人に、心からの感謝を込めて。
大崎夕湖
1932(昭和7)年、茨城県生まれ。機械オンチだったが、78歳のときに娘のすすめでパソコンに出合い、やがてスマホを使いこなすように。2011年3月からTwitter(現・X)を始めると、戦争体験者ならではの思いや等身大の日々のツイートが共感を呼び、フォロワー数は21万人超(2024年11月現在)。若者から同年代の人々まで幅広い支持を集めた。著書に『89歳、ひとり暮らし。お金がなくても幸せな日々の作りかた』『90歳、ひとり暮らしの知恵袋 お金をかけない素敵な毎日の過ごし方』(ともに宝島社)がある。2024年7月23日、91歳で永眠。
1968(昭和43)年、東京都生まれ。大崎博子の一人娘。24歳でロンドンへ留学、その後国際結婚し、夫と3人の子どもとロンドンで暮らす。