炭坑長の子息が食堂の娘と仲良くしてたとは思えない
劣悪な労働環境で、かつ落盤事故、爆発事故による死傷者も少なくなかった。
1914年、三菱方城炭坑で爆発事故が起こり、671人が死亡、遺族には平均375円が支払われた。庭付き3部屋の家が300円で建てられたという頃の375円であるから相当な金額だ。当時の財閥経営者は上に行けば行くほど良識的であったから、数百人が死亡するような大事故になれば、本社のトップにまで報告が上がり、手厚い補償金が下りたのだろう。
逆をいえば、下に行けば行くほど――つまり日頃、炭坑夫に接している経営側ほど労働搾取する姿勢が強かったといえる。「海に眠るダイヤモンド」では、経営側も良心的に描かれているが、実際は身分格差が激しく、ドラマのように炭坑長の大卒の子息が、炭坑夫や食堂の子女と仲良く語らっていたとは思えない。
戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指導で労働者の権利が向上して労働運動が容認されると、炭坑では労働争議が起こる。その結果、採炭量が不安定となり、ユーザーは供給不安から石油への切り替えを加速し、石炭産業の斜陽がますます進んでいった。結局、無理を重ねていくと、どこかでしわ寄せが来るという話なのかも知れない。
1963年北海道生まれ。國學院大學経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務の傍ら、論文・著作を発表。専門は企業集団、企業系列の研究。2005~06年、明治学院大学経済学部非常勤講師を兼務。06年、國學院大學博士(経済学)号を取得。著書に『企業集団の形成と解体』(日本経済評論社)、『日本の地方財閥30家』(平凡社新書)、『最新版 日本の15大財閥』『織田家臣団の系図』『豊臣家臣団の系図』『徳川家臣団の系図』(角川新書)、『三菱グループの研究』(洋泉社歴史新書)など多数。