警察も味方になってくれない被害者を顧問弁護士が救う

焼身自殺まで考え、それを伝えた被害者津波幸次郎の相談相手が、顧問弁護士の大鶴基成もとなり(61)だった。その大鶴に会った。

「当時の手帳で確認すると、津波社長が僕のところに来たのは、2015年6月1日の月曜日でした。『警察がぜんぜん信用してくれない』という相談で、まさに切羽詰まった様子でした。これはいかんと思い、翌日に社長といっしょに町田署に出向いたんです。で、刑事課長をはじめ5~6人の刑事さんと狭い部屋で会いました。僕が『小さな会社で5億円も騙し取られて大変なので、早く捜査をしてください』と願い出ると、驚いたことに課長は社長の前で、『誰が被害者か分かりませんからねっ』と妙な言い方をするのです。さすがにムッとしましたね」

最高検検事だった大物ヤメ検弁護士が警察の心理を読む

元検事の大鶴は、1990年代に東京地検特捜部でゼネコン汚職や第一勧銀総会屋事件を手掛けてきた。05年に特捜部長に就任し、最高検検事時代には2010年の陸山会事件の捜査にも関わった。11年8月に退官し、弁護士に転身した。大物ヤメ検弁護士である。津波の会社の顧問弁護士として登場したその大鶴を前に、警察は極めて不遜ふそんな態度をとったというのだが、半面、当の大鶴自身は警察の真意を冷静に分析する。

「つまり警察は裏の裏を読んだんですね。不動産のプロが、なぜこんなにコロッと騙されるのか、変じゃない? ってところでしょうか。それに加え、取引現場には司法書士もいましたから、ひょっとしたらこれは、津波社長が松田たちと組んで、銀行から5億円を騙し取った共犯ではないか、と考えたみたいなんです」

アタッシュケースに積まれた一万円札の束
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そう説明しながら、大鶴は事件発生当初の捜査当局の姿勢に対してこう憤った。

「そこで僕は言いました。『仮に僕が町田署の刑事課長だとして5人の捜査員を専従で当たらせてもらえたら、1週間で彼らを逮捕するよ』ってね。もちろんそう簡単に完全な裏付け捜査はできない。たとえば、通信のキャリア業者からメールを押さえ、連絡網を解明するなどという捜査はすぐには間に合いません。しかし、少なくとも詐欺や業務上横領の容疑で身柄を押さえることはできるし、そうしなければならない。僕は警察にそれを言ったんです。すると、彼らは『先生、そんなこと気楽に言うけど、検事が釈放するんですよ』と反論するのです。それは、わからなくはありません。今の検察の体質からすると、逮捕しても釈放しかねないですからね」