守られながら見張られる

一方私は、子どもの時からずっと、道端でワケのわからない性欲&加虐欲モンスターと化した見知らぬ男性たちからいきなり体や存在を狙われ好き勝手されて、警察に通報しても「見回りを強化します」と言われるだけの野生地帯でネズミみたいな立場でいたことが当たり前でした。

女性や子どもを守るために、法律や警察が男性を取り締まる、というような構造がある半面、私は車を運転して初めて「法律に守られている」ということを実感しました。そして同時に「交通違反やらかしたら警察に捕まる」ということも、すごく身近になりました。

つまり私にとっては、国家・警察・法律への信頼を持ちながら、同時に見張られる立場になることは、非常に「男性的」なのです。

法定速度を守って運転している時、私の胸には国家権力があります。守られていることに信頼を寄せることで、落ち着いて安全運転ができるのです。

車の中ではクレバーな「無」の感じで、車の外を見て、誰を守るべきかを判断しながら交通ルールを守ってスムーズに走行するってすんごい、侍っぽい。

「車の運転は、『男性』を体感できることである」と思うようになりました。

ネズミマインド、侍マインド
イラスト=田房永子
ネズミマインド、侍マインド

運転に必要な“侍マインド”

もちろん、運転が苦手という男性もたくさんいると思います。だけどそもそも車自体が、男性の身体や社会的ジェンダー規範に近いものであり、「侍」という男性的マインドが必要なので、ある程度練習したら違和感なくスッとできるのは男性のほうが多いというのもあると思います。

それに、つい数年前まで、男性の体型を模したダミー人形を使用した衝突実験データに基づいて車は設計されてきて、男性と骨の仕組みなどが違う女性のダミー人形は使用されてこなかったということも話題になっています。(毎日新聞デジタル「データがあれば… 運転中のけがに男女差 衝突試験は『変化の兆し』」)

私も40代になって、世の中のいろはも分かってきたし「男になればいいんだ」と頭で理解して運転できるようになりましたが、若い人、特に若い女性にとって車の運転は難しいことである、というのはそりゃ当たり前だと思うのです。

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家

1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。