日本で活動を広げる卒業生たち

近年、デンマークでホイスコーレを体験した人たちが、日本で地域を活性化する仕事をしたり、教育や環境に貢献したりするプログラムを立ち上げている。

代表的なのが、北海道東川町にある「School for Life Compath(コンパス)」や岩手県陸前高田にできた「Change Makers’ College」だ。

コンパスは、2017年にデンマークでホイスコーレと出会い、2018年に北海道に移り住んだ安井早紀さんと遠又香さんによって作られた。現在、アートや大自然の中での体験、北欧や地域社会の歴史・仕組みのインプット、異なるバックグラウンドの仲間との対話を通して学ぶ1週間〜10週間の滞在型プログラムを開催している。これまでに10代〜60代まで、200名以上がこの学校で学んだという。

短期プログラムもさまざまなところで開かれている。フォルケホイスコーレへの留学経験を持つ奥田陽子さんも、フォルケホイスコーレのような教育機関を日本に作ろうと、デンマークから講師を呼んで2泊3日の短期プログラムを奈良県の天川村や生駒市で行うなどの活動を続けている。

デンマークの「学びなおし」の仕組み

フォルケホイスコーレのすすめ~デンマークの大人の学校に学ぶ』(花伝社)には、フォルケホイスコーレで学んだ日本人57名のアンケート結果が掲載されており、ホイスコーレの魅力として「立ち止まる時間と余裕がある」「年齢に関係なく学びなおすことができる」「個人の意見を大切にする」「多様な他者からの学び」などがあがっていた。

フォルケホイスコーレには、アルコール依存症や不登校の子もやってくる。また、仕事を失ってもう一度学びなおすために来る人もいる。たとえ人生のレールから一度はずれることがあっても、国がサポートし、学びなおすることができる仕組みがあるのだ。

そして多くの日本人が、専門知識だけではなく、人生の幸せのヒントを学んでいる。留学先として、デンマークの大人のための学校も選択肢の一つに加えてみてはいかがだろうか。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。